第59章

小野詩織が口を開くより早く、九条和也は彼女を置き去りにして、天城澪のそばへ駆け寄った。

「……なんで一人でいるんだ?」

小野詩織も追いかけ、彼の腕に絡みつく。にこにこと目を細め、天城澪へ甘い声を向けた。

「澪さん、偶然ですね。ここ、澪さんも好きなんだ。ちょうど席が空いてないみたいだし、よかったら相席――」

天城澪は視線すら上げない。鏡を見下ろしたまま、口紅を引き直している。

露骨な無視に、小野詩織の笑みがぴしりと固まった。

九条和也は眉をひそめ、何食わぬ顔で自分の腕をすっと引き抜く。

小野詩織は顔色を失い、天城澪を見る目に、刃のような憎悪が一瞬走った。

九条和也は天城澪の向か...

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