名門校の問題児~私が恋した異端の御曹司~

名門校の問題児~私が恋した異端の御曹司~

大宮西幸 · 完結 · 22.5k 文字

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紹介

まさか自分にこんなことが起こるなんて思ってもみなかった!母は大きなお屋敷でお手伝いをしていて、私は高校最後の年の学費のことで夜も眠れずにいた。そんな時、突然そのお屋敷の奥様が我が家の玄関に現れて、名門進学校への全額奨学金を申し出てくれたの。制服代も生活費も、全部面倒を見てくれるって!

ただし条件が一つ。海外から帰国したばかりの息子さんの様子を見ていてほしいと。その人は最初こそ冷たく見えたけれど、学校では私をいつも守ってくれて、一緒に大学受験をしようなんて話もしてくれた。私、本当に彼に惹かれ始めていた。

そんな時、母が重い病気だと診断されて、奥様ははっきりと言った。息子が持っているあるものを手に入れるのを手伝うか、それとも母の治療費を打ち切るか、どちらかを選べと。一方には母が、もう一方には私を本当に大切に思ってくれる人がいる。私、本当におかしくなりそう。一体どちらを選べばいいの?

チャプター 1

 夜の十一時。私は狭苦しいアパートの一室に座り、テーブルの上に置かれた学費の請求書をじっと見つめていた。

「芽衣、電気を消してもう寝なさい」

 隣の部屋から母の声が聞こえてくる。気丈に振る舞ってはいるが、その声には隠しきれない疲労が滲んでいた。母は黒木邸の台所仕事を終えて戻ってきたばかりで、エプロンにはまだ油の染みが付いている。

 私は返事をせず、ただ紙の上を指でなぞり続けた。高校三年生の学費――三百二十万円。一部の人々にとっては、はした金かもしれない。けれど私たちにとっては、どうあがいても手の届かない金額だった。

「お母さんこそ寝て。私がなんとかするから」

 母の小さなため息と、布団を敷く音が聞こえた。四十五歳になる母は、あの台所で毎日十時間以上も立ちっぱなしで働いている。腰の痛みに苦しんでいるはずなのに、私の前では決して弱音を吐かない。

 私は電卓を手に取り、もう一度計算してみた。母の月給は二十八万円。生活費、家賃、そして母の薬代を差し引くと、毎月貯金できるのはせいぜい四万円だ。

 四万かける十二ヶ月。四十八万円。目標額には到底届かない。

 手が震え始めた。

 もしかしたら、母の言う通りなのかもしれない。私たちのような人間に、教育なんて高望みだったのだ。

 請求書を引き裂こうとしたその時、誰かがドアをノックした。

「こんな時間に誰だろう?」

 私はドアへ歩み寄り、覗き穴から外を見た。心臓が止まりそうになった。

 黒木瑠璃――黒木邸の主が、廊下に立っていたのだ。廊下の薄暗い明かりの下でも艶やかに輝く絹の着物を身にまとい、その後ろには女中が一人、慎ましく控えている。

 私は慌てて鍵を開け、靴につまずきそうになりながらドアを開けた。

「黒木奥様? どうして……」

「入らせてちょうだい」

 彼女の声は穏やかだったが、反論を許さない響きがあった。

 私が脇へ退くと、彼女は私たちの狭い居間へと足を踏み入れた。彼女の視線が部屋全体――擦り切れたソファ、ひび割れた壁、安っぽい装飾品――をなめるように一巡し、その瞳に読み取れない何かが揺らめいた。

「こんな夜遅くに、どなた……」

 寝室から出てきた母は、黒木夫人の姿を見るなり顔面蒼白になった。ボサボサの髪を必死に直そうとしながら、慌ててお辞儀をする。

「奥様、わざわざこのような所まで……私、何か粗相をいたしましたでしょうか?」

「落ち着いて」

 黒木夫人は片手を上げ、母を制した。

 女中が無言で清潔な風呂敷を取り出し、ソファの上に丁寧に敷いた。黒木夫人はそれから上品に腰を下ろされた。まるで私たちのみすぼらしいソファが、上座に変わったかのように見えた。

「あなたたちの人生を変えるような提案があるの」

 空気が張り詰めた。私と母は顔を見合わせ、お互いの目に困惑と緊張が浮かんでいるのを読み取った。

「どうぞ、おっしゃってください」私の声は震えていた。

「明日から、芽衣を桜華学園に入学させることができるわ」

 え?

 頭が真っ白になった。桜華学園――政治家や大企業の社長の子息たちが通う、伝説的な名門校だ。学費は年間八百万円、普通の高校の倍はすると言われている。夢に見ることさえなかった場所だ。

「全額給付奨学金よ。学費、制服、教科書、生活費――すべてこちらで負担するわ」黒木夫人は続けた。

 母は椅子から転げ落ちそうになった。

「本当ですか? 奥様、本当にそのような……」母の目に涙が溢れ出した。「ありがとうございます、本当にありがとうございます! このご恩をどうやってお返しすれば……」

「お母さん……ありがとうございます、黒木奥様!」私は感極まって言葉を詰まらせた。まるで宝くじに当たったような――いや、それ以上の出来事だ。

 黒木夫人はかすかな笑みを浮かべて頷いた。

「ただし、一つだけ小さな条件があるの」

 心拍数が跳ね上がった。

「条件とは、何でしょうか?」私は慎重に尋ねた。

「息子の優也のことよ――あなたも屋敷で見かけたことがあるでしょう。先月海外から戻ってきたばかりなのだけれど、彼も桜華学園に通うことになるわ。あなたには彼の勉強相手として、高校生活に馴染めるよう手助けをしてほしいの」

 優也のことは覚えていた。時折、屋敷の周りを一人で歩いている無口な男の子だ。最近海外から帰国したばかりで、控えめだが親切そうな印象だった。あまり話したことはないけれど、悪い印象は持っていない。

「もちろんです!」私は即座に頷いた。「喜んで協力させていただきます」

「素晴らしいわ」黒木夫人は立ち上がった。「すぐに制服と書類を持ってこさせるわね」

 私と母は彼女をドアまで見送った。廊下に出たところで、黒木夫人はふと立ち止まり、私の方を振り返った。

「もう一つだけ、芽衣」

 彼女の声は、ささやき声とかろうじて聞き取れるほどの低さになった。

「優也が大学でどう過ごしているか、定期的に私に報告してちょうだい。形式張ったものでなくていいの――友人同士の何気ない会話としてね。ただし、この取り決めのことは、彼には絶対に知られてはいけないわ」

 私は瞬きをした。それは母親としての、ごく普通の心配のように聞こえた。

「承知いたしました、奥様。彼のことはしっかりお世話します」

 彼女は満足げに頷き、去っていった。

 ドアを閉めても、まだ体が宙に浮いているような感覚だった。今起きたことのすべてが、現実味を帯びていないように思えた。

「お母さん、私の頬をつねって」

「馬鹿な子ね」母は嬉し涙を拭った。「これは現実よ。私たちにも、ついに運が回ってきたのね」

 私は自分の部屋に戻り、あの学費の請求書を見た。三百二十万円? 今の私は、年間八百万円もかかる学校に行こうとしているのだ。

 私はその紙を手に取り、迷うことなくビリビリと破り捨てた。

 しかし、紙片が散らばるのを見ていると、奇妙な感覚が忍び寄ってきた。

 あまりにも急で、あまりにも話がうますぎる。

 こんなことが現実に起こるのだろうか?

 私は首を振り、その考えを追い払った。もしかしたら、これが富裕層が貧しい人を助けるやり方なのかもしれない。疑うのではなく、感謝すべきだ。

 一時間もしないうちに、使用人が桜華学園の制服一式を届けてくれた。

 それを広げた瞬間、母が息を呑んだ。

 その制服は実に見事なものだった――上質な生地、完璧な仕立て、金糸で刺繍された学校の紋章。私たちのアパートにあるものすべてを合わせたよりも高価に見えた。

「この制服一着で、うちの家具全部より高いかもしれないわね」母はうっとりとした手つきで生地に触れた。「芽衣、このチャンスを絶対に無駄にしちゃだめよ」

 私は頷いた。明日は、すべてが変わる始まりの日になるだろう。

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