第50章 ファッション界のゴッドマザー

部屋に残ったのは、荒い呼吸だけ。

五分後。

「コンコン」

ノックの音。扉の向こうから、メイク係の震える声がした。

「セバスチャン様、エヴァお嬢様、お時間が近づいております。お直し、いたしましょうか」

セバスチャンが動きを止める。エヴァの唇を解放した。

額と額が触れるほど近い距離。息は熱く、重い。

セバスチャンの親指が、濡れた唇の端をなぞる。残っていた艶を、乱暴ではなく――執拗に拭い取った。

「入れ」

セバスチャンは身を起こす。声は掠れていた。

扉が押し開けられ、メイク係が俯いたまま入ってくる。

床の散らかった痕跡に視線が触れた瞬間、彼女はひゅっと息を呑んだ。見てはいけな...

ログインして続きを読む