第51章

窓の外では、濁った波が岸を叩き、嵐の唸りが刻一刻と強まっていた。

部屋の中は、息をひそめたように静まり返っている。

背後のヒルも、何も言わない。

迷って、迷って――ネロは結局、言葉を喉の奥へ押し込んだ。

「ヒル……お前の連中に言ってくれ。もう、俺をいたぶらないでくれ……」ようやく口にした声は不思議なほど落ち着いていた。「楽にしてくれ。頼む……頼むから……」

そして、振り返った。

あの男の目を、ちゃんと見ようとした。覚えておきたかった。これが最後の記憶になるのなら、これまでのことなんて――忘れてしまってもいい。

けれど、できなかった。

火のような双眸。視線が触れた、その一瞬で、...

ログインして続きを読む