第4章

「墓地の譲渡契約書をいただけますか。今すぐサインします」

私は診察室の入口に立つ仲介業者を見上げ、自分でも驚くほど落ち着いた声で言った。

包帯を切り終えた夏目隆が、その言葉に振り返り、怪訝そうに眉をひそめる。

「草薙さん、あの墓地がどうしても必要だったのでは? なぜ急に譲る気になったんですか?」

彼の困惑はもっともだ。三日前、私たちはあの見晴らしの良い区画を巡って、熾烈な争奪戦を繰り広げたばかりなのだから。

「遺体の処理を人に頼むのは、面倒なので」

私は目を伏せた。声は、まるで自分のものではないように乾いていた。

「だから湘南の海へ行って、魚にでも食べてもらおうかと」

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