第9章

聖マリア病院の病室は、まるで氷で満たされているかのように、空気が冷たく張り詰めていた。

私は固く手を握りしめる。爪が手のひらに深く食い込み、じくじくと痛む。だが、そんな痛みは、心が引き裂かれるような感覚に比べれば、あってないようなものだった。

「どうして今さら、私を気にかけるの?」

自分のものとは思えないほど、か細く震えた声が出た。

「今まで、どこにいたのよ」

誰も答えない。草薙家の人々は皆、気まずそうに視線を落としている。まるで、床の模様に何か重大な秘密でも隠されているかのようだ。

「夜子、私たちはいつでも……」

母である幸子が、おずおずと口を開く。しかし、私はその...

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