第23章 誘惑

瀧本知暁が酒の匂いをまとって帰宅したのは、すでに深夜だった。

玄関の人感センサーがぱっと灯り、彼はスーツの上着を脱ぐなりソファへ放り投げ、まっすぐ二階の書斎へ向かう。アルコールは神経を鈍らせるどころか、六年前の断片的な記憶をやけに鮮明にしていった。

デスクチェアに腰を下ろし、指先をキーボードの上で長く止める。逡巡の末、結局、暗号化フォルダを開いた。中にあるのは片瀬澄乃の資料。御華に在籍していた頃に撮られた、すっぴんの写真まで残っている。

瀧本知暁はモニターに映る素顔を凝視し、眉間の皺を深くした。

どうして、彼女を見るたびに――理由もなく胸の奥がざわつく。

とりわけ、意地を張ってこち...

ログインして続きを読む