紹介
屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。
――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。
やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。
――もう遅いわ。あなたを一生、許すつもりはない。
そう誓ったはずの私だったが、予想だにしない誤算があった。
私たちが産んだ愛らしい三つ子たちが、今さら戻りたいと泣く父親の、まさかの最強の味方として動き出したのだから。
チャプター 1
宴会場。
片瀬澄乃がシャンパンのグラスを握る指先は白くなり、ざわめく人波の向こう――談笑する貴婦人たちに囲まれた父・片瀬大介へと視線が吸い寄せられた。
かつては慕ってやまなかったその顔も、今では薄っぺらい仮面にしか見えない。母の葬儀から、まだ三か月。あの男は平然と大川沙織と片瀬結希の母娘を家へ連れ込み、堂々と「家族」を名乗らせた。
「澄乃、こんなところで何してるの? 村田社長がね、協業の話、あなたとしたいって」
甘ったるい声が香水の匂いをまとって絡みつく。澄乃はほとんど反射で背筋を強張らせた。
「触らないで。興味ない」
三つ年上の「お姉さん」。その正体は、父が外に作った私生児だ。
母が病床に伏していたころから、片瀬大介は浮気相手――結希の母である大川沙織を連れ、高級クラブへ出入りしていた。今ではその沙織が、母の遺した宝飾を身につけ、高価なドレスで屋敷を闊歩し、片瀬家の正妻として振る舞っている。
そして片瀬結希は、私生児から一転、片瀬家の「お嬢さま」になった。
結希の笑みは崩れない。莓色にきらめくカクテルを差し出し、やわらかく言う。
「そんな冷たくしないでよ。私たち、姉妹なんだから。ほら、これ……飲んでみて?」
グラスの縁のチェリーが、不気味な光を返した瞬間。澄乃の胃が、ぐらりと波打った。
忘れられるはずがない。母の臨終に際し、片瀬大介が医師に「金の無駄だろ」と苛立っていたことも。大川沙織が初めて玄関をくぐったとき、勝者の目で母を値踏みしたことも。
あの屑男と屑女、そして巣を奪った私生児。三人は彼女の心を幾度も抉り、血の穴だらけにした。
「……自分で飲めば」
半歩下がる。拒絶を隠しもしない目で見返した。
だが結希は見ていないふりをして、無理やりグラスを押しつけてくる。
「お姉ちゃんの顔、立ててよ。ほら、周り、見てる。姉妹仲が悪いって思われたくないでしょ?」
視線の先を追えば、確かに数人の目が、興味深げにこちらへ向けられていた。こういう連中は噂が大好物だ。ここで突っぱねれば、どんな下品な話にされるか分かったものじゃない。
迷いかけたそのとき、結希がさらに声を落とす。
「パパが言ってたの。姉妹でちゃんと『見せろ』って。こんなことで機嫌損ねさせたら、面倒だよ?」
胸の奥が、鋭く刺された。
分かっている。今の父の視界には、結希と沙織しかいない。少しでも逆らえば、待っているのは叱責と冷遇だ。
それに――片瀬大介は、母が命を削って築いた御華ファッションを握っている。まだ取り戻せていない。今ここで決裂するわけにはいかなかった。
澄乃はぎこちなく手を上げ、カクテルを受け取った。
「そう、それでいいの」
結希の笑みはさらに甘くなる。まるで、さっきまで脅していたのが別人だったみたいに。
澄乃は喉を潤す程度にひと口。苦い液体が喉を滑り落ち、妙な灼けるような感覚を残した。
――次の瞬間。
丹田から邪な熱が、火柱のように突き上げた。
澄乃は反射的に襟元を掴む。冷汗が一気に噴き、ドレスが肌に張り付いた。信じられない、という目で結希を見れば、相手の瞳に一瞬だけ、得意げな光が走る。氷の楔みたいに理性を貫いた。
「……あなた……」
この場で媚薬?
正気じゃない。
――父が黙認している?
結希はふらつく澄乃の身体を支え、吐き気がするほど優しい声で言った。
「大丈夫? 顔色悪いよ。休ませてあげる」
廊下を引きずられるうち、意識が滲んでいく。鼻先にまとわりつく香水の匂い――それは昔、大川沙織が母の病室へ踏み込んだときと同じだった。
「放して……」
歯を食いしばって抵抗するが、乱暴に突き飛ばされ、客室へ押し込まれる。
扉が閉まる「バタン」という音。直後、外で結希と男のひそひそ声がした。脂っこい笑い声が耳に絡み、胃が痙攣する。
身体の火が、ますます燃え上がる。澄乃はカーペットに崩れ落ち、屈辱の涙が冷汗と混じって頬を伝った。
片瀬大介の薄情も、結希の陰険も、この泥沼の家庭に囚われた自分自身も――全部が憎い。母の葬儀すら、あの狗男女に穢された。
「小美人ちゃん、待たせたなぁ」
耳障りな声。
澄乃が顔を上げると、ビール腹の男が立っていた。父の取引相手の岡野だ。以前の酒席でも、ねっとりした目で彼女を舐め回していた。指を擦り合わせながら近づく手元の金の指輪が、光を反射して不快に輝く。
「近寄るな!」
全身の力で叫び、爪をカーペットに立てた。
男はよろめくが、すぐに逆上して飛びかかってくる。
「何が清純ぶってんだ! 片瀬大介がオマエを俺に差し出したんだぞ! 怒らせたら片瀬家なんて今すぐ潰してやる!」
片瀬大介――。
やはり、父が許したのだ。
実の父親が、娘を火坑へ突き落とす。
澄乃はどこからか力が湧き、男の股間を思い切り蹴り上げた。男がうずくまり呻いた隙に、転げるようにして部屋を飛び出す。
触れさせない。絶対に、あんなものに。
裸足で走る。冷えた大理石が足裏を刺し、廊下のクリスタル照明が視界を揺らす。それでも止まれなかった。背後で罵声と重い足音が追いすがる。催促する太鼓みたいに神経を叩く。
「待て! 覚えてろ!」
体内の熱はなお暴れ、意識は途切れそうになる。限界寸前――前方の扉が突然開き、すらりと長身の男が足早に出ていった。扉は閉まりきらず、手のひらほどの隙間が残る。
澄乃は考えるより先に、泥鰌みたいに隙間へ滑り込んだ。反手で扉を閉め、手探りで鍵を回す。
「カチャ」
小さな音がして施錠が落ちた。
扉に背をつけた途端、外から脂ぎった息と怒声が聞こえる。
「くそっ、どこ行きやがった! 見つけたらベッドから降りられねえようにしてやる!」
身体が震えた。
このまま怒りに任せて、扉を破って入ってくるかもしれない。
窓の外へ目をやる。28階。逃げ場はない。
――ここで、運に縋るしかないの?
最新チャプター
#220 第220章 男を奪う
最終更新: 10/8/2026#219 第219章 挑発しに行く
最終更新: 10/8/2026#218 第218章 追いつけない
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最終更新: 10/8/2026#216 第216章 エージェントを育成する
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最終更新: 10/8/2026#214 第214章 オークション
最終更新: 10/8/2026#213 第213章 賭けの約束
最終更新: 10/8/2026#212 第212章 実の娘ではない
最終更新: 10/8/2026#211 第211章 犯人は彼女だ
最終更新: 10/8/2026
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屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。
――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。
やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。
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運命のゲーム
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長年の結婚生活を終わらせたら、夫と息子が泣きついてきた
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だから私は、正式に離婚協議書を差し出した。
すると、あろうことかこの二人は、声を揃えてこう言ったのだ。
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ふん、今さら一体、何の真似のつもりかしら。
社長秘書のヒミツ恋情
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「体だけの関係。恋愛感情は一切なし」——そう決めたはずだったが…
今さら帰ってこいと言われても遅い!
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十五年もの間、家族のために尽くしてきた日々はすべて否定され、身に覚えのない罪を着せられ、幼馴染だった婚約者さえも私を裏切り、本物の令嬢へと乗り換えた。
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泥だらけの私を迎えに来た不気味なバイクの男が、実は国家トップクラスの超巨大財閥の御曹司であることも。
私の本当の実家が、誰もがひれ伏す歴史ある名门一族だということも。
そして何より、彼らが無能だと見くびっていた私自身が、各界の重鎮たちが縋る名医であり、世界のファッション界を裏から牛耳る「伝説の天才デザイナー」であるということを!
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待ち受けていたのは、超過保護な両親と、不器用ながらも妹を全力で守る身内たちによる、規格外の溺爱ラグジュアリーライフ。
一方、本物の天才を自らドブに捨てた元家族や元婚約者には、取り返しのつかない破滅と、血を吐くような「絶望の後悔タイム」が幕を開ける!
どん底から世界の頂点へ駆け上がる、爽快感100%の現代逆転シンデレラストーリー!
私が去った日
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息が詰まるような日々。愛されていると思い込んでいた時間。すべてが偽りだった。
けれど、彼らはひとつだけ間違えた。
私を、もう戻れないところまで追い詰めたこと。
私が去ると決めたあの日。
私は、最低な夫も、母親への感謝を忘れた息子も、そして彼らによって壊された過去の自分も、すべて置き去りにした。
親友の支え。そして、私の本当の価値を見抜き、才能を認めてくれたある若き実業家との出会い。
その温かな手によって、私はもう一度、自分自身を取り戻した。
失った誇りを取り戻し、眠っていた才能を開花させ、世界へ羽ばたくデザイナーとして新たな人生を歩み始めた。
今、私の作品は世界の舞台で輝いている。
一方で、かつて私を捨てた男は、跪いて許しを乞う。
「戻ってきてくれ」と。
けれど、もう遅い。
私が去ったあの日こそが、私が本当の自分を取り戻した日。
もう二度と、過去には戻らない。
元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。












