第18章 彼女のことは、彼は何も知らない

風間悠希は、牧野龍哉がその言葉を吐いた直後、グラスを持ち上げかけた手をぴたりと止めた。

次の瞬間、顔を上げて相手の視線を捉える。眉間がわずかに寄った。

「……今、なんて?」

牧野龍哉は悠希の表情をじっと見つめ、しばらくしてから、まるで新大陸でも見つけたみたいに口角を上げた。

「いや、なんでもない。さっきのは俺が発狂してただけだと思ってくれ」

そう言い捨てると、牧野龍哉は背を向け、大股でその場を去っていった。

彼がいなくなってもしばらく、悠希の耳の奥では、あの一言がしつこく反響し続けた。

――お前の奥さん、レーシングがあんなに上手いなんてな。

あいつが言う「奥さん」が、水原美月...

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