第37章 奥様、あなたは夫を殺したのか

七海は、いまの空気がどこかおかしいと鋭く察し、身を引こうとした。けれど、その瞬間——風間悠希の息が、ふっと重くなるのが聞こえた。

「薬、塗れた? 俺がやる」

「……え?」

七海が理解するより早く、風間悠希は彼女を横抱きにした。

いきなり視界が浮く。反射で七海の腕が彼の首へ回る。骨ばったほど細い指先が、うなじのあたりに触れた。ひやりとした体温が肌に落ち、真夏の乾いた大地に一滴の雨が沁みるみたいに、彼の神経を甘く濡らした。

我に返った七海が暴れる。

「風間悠希、下ろして!」

風間悠希は何も言わない。ただ、腕の力を少しだけ強め、そのままベッドまで運ぶ。七海の肩の湿布を確かめるつもりな...

ログインして続きを読む