第82章 普通の友達にもならない

電話の向こうは、しばらく沈黙が続いた。やがて、牧野龍哉の声がもう一度、低く響く。

「七海。ひとつ聞きたい。……君、安田恵なのか?」

その問いを投げた瞬間、黙り込んだのは七海のほうだった。

――何を掴んだの?

どこから、そんな名前が出てきたの?

今の七海には、まだ整理がつかない。けれど大事なのは、彼女は自分の“正体”を、誰にも知られたくないということだ。

以前、風間悠希の前でだけ切り札を見せたのも、他人にその名を利用されて好き勝手されるのが嫌だったからにすぎない。

それに、レース大会はもう中止になった。

水原美月が、この場を使って何かを証明することもできない。ましてや、騒ぎに乗...

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