第10章 決して振り返らない

彼が言っているのは――あの絵の男のことだ。

清水若菜は足を止め、ゆっくり振り返った。口元に浮かんだのは、嘲るような笑み。

「とっくに、どうでもいい!」

名取賢次はその場に縫い付けられたように固まり、彼女の決然とした背中を見送った。胸の奥が、すうっと空っぽになる。

なぜだ。

怒りが湧くどころか、ひどく痛い。

その後、取引先との商談自体は滞りなく進んだ。けれど名取賢次は終始どこか上の空で、気分も晴れないまま。

ホテルの正面玄関で別れ際、取引先がふと遠くを見て目を丸くした。

「あれ……九条辰哉じゃないですか。九条社長。どうしてここに?」

名取賢次は眉を寄せる。

「九条社長? そ...

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