第48章 彼は彼女を失おうとしている

名取浩史は本邸の書斎にいた。

名取賢次が扉を押して入ると、浩史はデスクの向こうで書類をめくっているところだった。足音に気づいて顔を上げ、賢次を一瞥するなり、また視線を落としてページを繰る。

「入る前にノックもできんのか」

賢次は机の前に立ち、見下ろすように父を見た。

「若菜に会いに行ったんですか」

浩史の指が一瞬止まる。鼻で笑い、冷えた声を落とした。

「告げ口か。……お前が言うほど出来た女じゃないじゃないか。ほんとに分別のある女なら、自分で綺麗に片をつける。わざわざお前のところへ駆け込んで揉め事を持ち込んだりはしない。そんな女を、まだ庇うのか」

賢次は怒りを噛み殺すように、乾い...

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