第2章
土曜の朝九時。引っ越しトラックのエンジン音が、近所一帯の静寂を破った。
私は床から天井まである大きな窓のそばに立ち、二人の作業員がトラックから次々と荷物を降ろすのを眺めていた。その荷物は、私が丹精込めて飾り付けた客間を間もなく埋め尽くすことになる。
玄関の呼び鈴が鳴った時、私はすでにホールで待ち構えていた。深呼吸をして、表情を整える。完璧な継母の笑顔、起動。
ドアを開けると、玄関のポーチに香織が立っていた。その後ろでは、美咲がピンクのユニコーンのリュックをぎゅっと握りしめている。
「絵里さん!」香織が声を上げた。「住まわせてくれて、本当にありがとう」
彼女は馴れ馴れしすぎるハグをしてきて、わずかに膨らんだお腹が私の体に押し付けられるのを感じた。その瞬間、私の体は硬直した。
「もちろんよ、香織さん。ここがあなたの家よ」。言葉は口から出たものの、まるで別人が話しているような感覚だった。
美咲が香織の後ろからひょっこりと顔を出し、その黒い瞳は敵意に満ちていた。
「あなたは私のママじゃない。あなたに面倒を見てもらう必要なんてない」
八歳の少女の明け透けな物言いに、場の空気が一瞬で重くなった。香織は優しく美咲の髪を撫でる。
「いい子だから、美咲。絵里さんはパパの奥さんよ。私たちの面倒を見てくれるの」
「香織がいい」。美咲の声は鋭く、決然としていた。
私はしゃがみ込み、彼女と目線を合わせようとした。
「美咲ちゃん、辛いのはわかるわ。でも、ゆっくり友達になれたらいいなって」
「友達なんていらない」。彼女はくるりと背を向けると、ちょうどドアから入ってきた和也のもとへ駆け寄った。
和也はブリーフケースを床に置くと、美咲を抱き上げた。
「無事に家に着いたんだね、美咲ちゃん」
抱き合う二人を見ながら、悟がこんなに熱烈な歓迎を受けたことは一度もなかったことを思い出した。
「和也、香織さんが部屋に落ち着けるよう、手伝うわ」と私は言った。
「いや、俺がやるよ」。和也は美咲を下ろすと、香織の方へ歩み寄った。「君と美咲ちゃんは、ここを自分の家だと思って、気兼ねなく過ごしてくれ」
自分の家?ここは『私の』家なのに。
和也が自ら香織のスーツケースを引きずり、部屋の設備を案内し、エアコンの温度まで調節するのを、私はただ見ていた。結婚して十二年、彼が私にそんな細やかで思いやりのある素振りを見せたことなど、一度もなかった。
午後の二時、私は香織を隣人の由美子さんの家の裏庭で開かれているバーベキューに連れて行った。ご近所との円満さをアピールする絶好の機会であり、同時に、香織を観察するまたとないチャンスでもあった。
「みなさん、こちらは山本香織さん。和也の義理の娘、美咲の世話をしてくれているの」と、庭に集まった母親たちに彼女を紹介した。
香織ははにかんだ笑みを浮かべた。
「はじめまして。O市って、本当にきれいなところですね、これからもよろしくお願いします」
この地区で一番の噂好きである村井麻美が、すぐに身を乗り出してきた。
「ずいぶんお若いのね。子供の扱いは慣れてるの?」
「美咲のことはもう一ヶ月ほど見ています。とても懐いてくれて」。香織の答えには、含みがあった。
由美子が香織にレモネードのグラスを手渡した。
「少し顔色が悪いみたいだけど、大丈夫?」
香織はグラスを受け取ると、指でその縁をなぞった。
「最近、少し吐き気がして。たぶん…新しい環境に慣れていないだけだと思います」
その場の空気が、女性特有の直感的な鋭さで満たされた。梨乃の目がすぐに輝く。
「吐き気?それ、いつから?」
「三ヶ月…くらい前、でしょうか」。香織はさりげなさを装って言ったが、私は彼女の目尻に浮かんだ得意げな色を見逃さなかった。
「お医者さんに行った方がいいんじゃない?いい家庭医を紹介できるわよ」
香織は首を振り、無意識に自分のお腹に手をやった。
「大丈夫です。原因はわかっていますから。時が経てば、すべてわかります」
由美子と梨乃が、意味ありげに視線を交わした。夕食の時間までには、和也の若いベビーシッターが「おそらく」妊娠しているという噂が、このコミュニティ全体に広まっているだろうことを私は確信した。
わざと匂わせている。あのビッチ。
家に戻ると、私は頭を冷やす必要があった。シャワーを浴びて思考を整理しようと、主寝室へ向かう。そして、バスルームのドアを開けた瞬間、私は凍りついた。
「和也!」私の声が部屋に響き渡った。
彼は慌てて二階へ駆け上がってきた。
「どうしたんだ?」
私は化粧台を指さした。
「ここは私のプライベートな空間よ。どうして香織のものがここにあるの?」
和也はちらりとそちらに目をやり、どこか気まずそうな表情を浮かべた。
「彼女が間違えて置いたんだろう。大げさに騒ぐなよ。お客さんがいるんだから、寛容にならないと」
「お客さん?それとも家族?この家における彼女の正確な立場をはっきりさせてほしいわ」
和也の顔が曇った。
「絵里、心が狭いな。香織は引っ越してきたばかりで、慣れるのに時間が必要なんだ。この家の女主人として、もっと寛大になるべきだ」
「家の女主人?」私は冷たく笑った。「私の香水を使って、プライベートな空間を占領して、それがどういうことなの?」
「美咲が慣れた匂いを必要としてるのかもしれないだろ。香織は、あの子を安心させようとしてるだけだよ」
言い訳を重ねるごとに怒りが増したが、私は必死でその激情を抑えつけた。
その夜の十一時半。和也は熟睡していたが、私はまったく眠れなかった。
日中の美咲の敵意、地域の人々の集まりでの香織の匂わせ、そして寝室を侵されたことへの怒り――それらの感情が、毒蛇のように胸の中でとぐろを巻いていた。
睡眠薬を取ろうと、静かに階下へ降りた。ガレージのドアを押し開けると、和也の車の中に微かな光が見えた。
近づいてみると、それは見たことのない携帯電話で、画面がまだ光を放っていた。
震える手でその携帯電話を手に取った。パスワードロックはかかっていない。画面には、香織とのメッセージのやり取りが表示されていた。
[今日、赤ちゃんが初めて蹴ったよ。パパに会いたくて仕方ないみたい]
[早くこの子のことを世界中に知らせたいな]
[時期が来たら、俺がすべて片付ける。絵里は障害にはならない]
最後のメッセージのタイムスタンプは、三時間前を示していた。
私はチャットの履歴を遡り続けた。一つ一つのメッセージが、刃物のように私の心を切り裂いていく。
[美咲、新しい部屋をすごく気に入ってる。住まわせてくれてありがとう]
[美咲と俺たちの子は、一番いい場所で暮らすべきだ]
[今日、絵里が地域の集まりに連れて行ってくれた。なんだか緊張してるみたいだった]
[そのうち慣れるさ。子供が生まれれば、すべて自然に収まる]
携帯電話を持つ手が震えていた。三ヶ月。香織は妊娠三ヶ月で、和也が美咲を家に連れてくると私に告げたのは、わずか一ヶ月前のこと。つまり、二人の関係は私が想像していたよりもずっと早くから始まっていたのだ。
さらに私を怒らせたのは、最後の一文だった。絵里は障害にはならない。
障害?この私の家で、私が障害だっていうの?
慎重に携帯電話を元の場所に戻し、寝室へと抜き足差し足で戻った。和也はまだすやすやと眠っていて、時折小さな寝息を立てている。私は彼の顔を見つめた。十二年間愛してきたその顔が、今はひどく見知らぬものに見えた。
ベッドに横たわり、天井を見つめながら、頭を猛スピードで回転させた。すべての手がかりが繋がっていく。和也が突然美咲を家に連れてきたいと言い出したこと、若い香織を雇ったこと、私に二人の関係を隠していたこと、地域の集まりでの香織の匂わせ、そして私のプライベートな空間への侵入。
これは偶然ではない。これは、周到に計画された侵略だ。
香織は妊娠していて、父親は和也。彼らは美咲を楔として利用し、血の繋がりを口実に、一歩一歩、私の家庭と地位を食い荒らそうと計画していたのだ。
そして私、五条絵里は、「片付けられる」べき障害として扱われている。
十二年間の結婚生活が、この瞬間、完全に砕け散った。しかし不思議なことに、感じたのは怒りや悲しみだけではなく、どこか久しぶりのような、澄み切った感覚だった。
いったい、いつぶりだろう。こんなにもはっきりと問題を考え、冷静に状況を分析したのは。和也の妻になってから、完璧な郊外の主婦になってから、自分の頭脳も一緒に閉じ込めてしまっていたようだ。
しかし今、これほどあからさまな裏切りと計算を前にして、眠っていた私の本能が目を覚まそうとしていた。





