第5章
一晩中、私は天井を見つめていた。隣で眠る和也の、穏やかな寝息を聞きながら。
彼は何事もなかったかのようにベッドに入り、私の額にキスをして「おやすみ」と囁いた。まるで数時間前に私を銃口の前に突き出したことなどなかったかのように。父の自殺が何の意味も持たないかのように。三年にわたる嘘が、たった一度のおやすみのキスで帳消しにできるとでも言うように。
アラーム時計の赤いデジタル表示が、午前五時四十七分を告げていた。
直人の言葉を、私は何度も心の中で反芻していた。父の手紙は宝石箱に隠してあるが、その一言一句は記憶に焼き付いている。『直感を信じろ、うわべの完璧さを信じるな』。
午前六時...
ログインして続きを読む

チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章


縮小

拡大