第3章
「もちろん、意識ははっきりしていました」
私は泣き声で少し掠れた声で、小声で答えた。
「彼は風邪気味で鼻が詰まっていて、朝起きた時に薬も飲んでいました」
年配の警察官はわずかに眉を上げ、手帳に何かを書きつけた。
薬の副作用は眠気、そして鼻詰まりは、与一がガス漏れの匂いに気づかなかった可能性を意味する。
若い方の警察官が話を引き継いだ。
「佐藤さん、家を出られた具体的な時間を教えていただけますか?」
「よく覚えていません」
私は首を振った。
「十時頃だったと思います」
「ご帰宅の際、普段とは違う道を選ばれていますね」
年配の警察官の口調は、丁寧かつ事務的なままだった。
「いつも使われている幹線道路を通らなかったのはなぜですか?」
もし私がいつもの道で帰っていれば、もっと早くガス漏れの兆候に気づき、爆発事故を未然に防げたかもしれない。
彼らは、私が悲劇が起こるようにと、意図的にあの人けのない小道を選んだのではないかと探っているのだ。
「与一に煙草を買いに行くためです」
私はポケットからスマートフォンを取り出し、LINEのトーク履歴を開いた。
「ご覧ください。彼から送られてきたものです」
画面には、友沢与一からの最後のメッセージが表示されていた。
『セブンスター買ってきて。山田コンビニで』
「山田コンビニ?」
若い警察官はその名前に少し戸惑っているようだった。
「自動販売機の隣にあるコンビニです」
私は説明した。
「店主が山田さんという方で、与一とは顔なじみなんです」
二人の警察官は視線を交わした。
これから彼らが何をするかは分かっている――防犯カメラを調べ、山田コンビニの店主に聞き込みをし、私の足取りを裏付けるだろう。
「分かりました、佐藤さん」
年配の警察官が手帳を閉じた。
「本日の事情聴取は一旦これで終了します。何か新しいことが分かれば、またご連絡します」
私は頷き、ティッシュで乾いていない目尻の涙を拭いながら、かろうじて体を支え起こした。
若い警察官が杖を持ってきてくれ、私を支えて取調室から出してくれた。
廊下に出ると、ちょうど別の取調室から友沢幸子が出てきたところだった。彼女は私を見るなり、すぐさま怒り狂った獣のように突進してきた。
「佐藤美絵紗、あんたが私の息子を殺したんだ! これはあんたの意図的な報復だろう!」
彼女は叫び、顔を醜く歪ませた。
不意を突かれて彼女に突き飛ばされ、私は地面に倒れ込み、杖が傍らに滑り落ちた。
私は抵抗せず、ただ地面にうずくまり、涙が制御できずに溢れ出た。
「ごめんなさい……全部私のせいです……私が出かけなければ……与一は……」
私は途切れ途切れに泣きじゃくり、その声は自責と悲痛に満ちていた。
二人の警察官が素早く割って入り、友沢幸子のそれ以上の攻撃を制止した。
引き離されても彼女はまだ食い下がる。
「こいつが犯人よ! 絶対にわざとやったのよ! 逮捕しなさい! なんで逮捕しないのよ!」
年配の警察官が眉をひそめた。
「友沢さん、落ち着いてください。先ほど『意図的な報復』とおっしゃいましたが、どういう意味ですか?」
友沢幸子は一瞬、虚を突かれた。警察がその細かい点を突いてくるとは思わなかったのだろう。
彼女は口を開いたが、合理的な説明は出てこなかった。
「わ、私はただ、悲しすぎて……」
彼女はどもりながら言った。
「与一は私の一人息子で……」
「では、これは事故ではないとお考えで?」
若い警察官が問い詰める。
友沢幸子の顔色は土気色になった。
「あんたたち、こいつに騙されてるのよ! あの哀れな様を見て! きっと金でも握らされたんでしょう、そうじゃないの!?」
警察官たちの表情が険しくなった。
分かっている。友沢幸子の失態が、私への同情票を稼いでくれている。
私は支え起こされ、再び杖を突いた。警察官は、ひとまず帰って休むように、必要な時はまた連絡すると言った。
警察署を出て、私は深呼吸を一つした。第一段階は、無事に通過した。
これから警察は、私と友沢与一の婚姻関係を深く調べるだろう。マンションの再開発補償金を巡るいざこざや、与一の浮気の証拠、さらには彼らが隠していた隠し子の存在まで突き止めるかもしれない。
彼らが調べることについては、心配していない。
むしろ、私は彼らの調査を期待している。
――
姑の友沢幸子は、夫の葬儀が終わるとすぐに私を家から追い出した。
私は仕方なく、いくつかの必需品だけを持って、近所の古びたビジネスホテルに仮住まいすることにした。
ちょうど衣類を少し整理しようとしていた時、スマートフォンの着信音が突然鳴り響いた。見知らぬ番号からだった。
「もしもし、佐藤美絵紗様でいらっしゃいますか? 私、光晨保険のカスタマーサービスの者です。ご主人様、友沢与一様の事故死亡保険金の請求手続きにつきまして、いくつか書類をご準備いただく必要がございまして……」
私の手は微かに震えたが、声は意図的に嗚咽混じりに保った。
「わ、私の夫はまだ、亡くなったばかりで……今はまだ、そういうことに向き合えなくて……」
「お気持ち、お察しいたします、佐藤様」
カスタマーサービスの声は同情に満ちていた。
「ですが、保険金の請求には時効がございますので、お早めにお手続きされることをお勧めいたします。もし何かお困りでしたら、専門の者がご自宅までお伺いしてご案内することも可能ですが」
私は相手の厚意に感謝し、電話を切った後、顔から悲しみの表情が瞬時に消えた。
ホテルの部屋に戻り、ベッドの端に腰掛けて、保険会社からの電話の裏にある真実を考えた。
保険会社が被保険者の死亡情報を自動的に知るはずがない。標準的な手続きは、遺族か指定受取人が自ら請求を申し出るものだ。そして私、友沢与一の法的な妻であり、夫を失ったばかりの妻である私が、保険会社に彼の死を報告するような心境にあるはずがない。
では、誰が前もって保険会社に連絡したのか?
答えは明白だった。
小川礼子だ。彼女がきっと友沢幸子を唆して友沢与一の死亡を申告させ、保険金を受け取ろうとしたに違いない。だが、法的な受取人である私自身が手続きをする必要があると告げられたのだろう。
それで、電話が私のところへかかってきたのだ。
彼女たちの計画は明らかだ。私に保険金を受け取らせた後、様々な名目で私の手からそれを奪い取るつもりなのだ。
お笑いなのは、この保険は実は友沢与一自身が契約したもので、私にサインさせるために、わざわざ自分にも一つかけ、受取人に私を記入したことだ。
最初から、彼らは私に事故が起き、私が死に、彼らがこの保険金を受け取れるようにと企んでいた。
この諸刃の剣が、最終的に自分たち自身に向かうことになるとは、彼らは夢にも思わなかっただろう。
私が無理やりあの保険証券にサインさせられたあの瞬間、私はすでに、友沢与一を彼自身が設計した罠で死なせると決めていたのだ。
