紹介
ところが、その間に自宅でガス爆発が起き、夫は即死したという。
私は泣きじゃくり、よろめきながらマンションへと走った。
ご近所さんたちは、私と与一(よいち)の夫婦仲は本当に睦まじかったのだと感嘆した。
私だけが知っている。ただ、自分の「成果」を確かめたくて急いでいただけなのだと。
なにしろ、この目で見届けなければ、安心できないじゃないか……
チャプター 1
週末の雨の日。窓の外は灰色の空が広がっている。
私は早起きして、六十平米ほどの二LDKのマンションを、そっと音を立てずに掃除していた。
与一はまだ寝ている。いや、寝たふりをしているだけだろう。
私が起きた後、こっそりスマホをいじっているのが彼の習慣だと知っていたが、それを指摘したことは一度もない。
私は与一が昨夜吸い残した煙草の箱を、ダイニングテーブルの彼の定位置に置いた。
そこには、彼が気に入っているライターもある。
キッチンに入り、冷蔵庫からとっくに解凍してあったスペアリブを取り出す。きれいに洗い、アク抜きをしてから土鍋に入れて弱火で煮込み始めた。これは与一の大好物の一つ——山芋とスペアリブの煮込みだ。我が家のキッチンはリビングの片側にあるベランダを改造した区画にある。九十年代初頭に建てられた古いマンションで、集中ガス供給はなく、あるのは携帯式のガスボンベだけ。
この建物に残っているのは、もう私たち一世帯だけだ。他の住人たちは間もなく行われる再開発のために皆引っ越してしまった。
私はガス栓をひねり、コンロに火をつけた。
突然、きちんと閉まっていなかった引き窓から一陣の風が吹き込み、炎が瞬く間に消えた。
鼻をつくガスの匂いが広がり、私は眉をひそめて再び点火する。
火がついたかと思うと、また風が吹きつけ、火は再び消えてしまった。
この旧式のガス設備は本当に危険だ。
私は引き窓を慎重に閉め、もう風が入ってこないことを確かめた。
「与一、山芋がなくなっちゃったから、今からスーパーに買いに行ってくるね。鍋でスペアリブを煮てるから、起きたら火の番をお願い」
私は寝室のドアの前に立ち、まだ布団の中にいる与一に言った。
与一は寝返りを打ち、眉をひそめる。
「風邪ひいてるのに家事をやらせるのか? 俺を疲れさせて殺す気かよ」
「やらせるんじゃなくて、鍋を見ててほしいだけ。この古いガス設備、また風で火が消えたりしたら、ガス漏れで危ないから」
与一は身を起こし、あたりを見回した。
「俺の煙草は?」
「ダイニングテーブルの上よ」
彼はライターを見つけたが、煙草の箱は見当たらなかった。
「セブンスター、一箱買ってきてくれ」
私はわざと尋ねた。
「どの種類? 間違えると悪いから、LINEで送って確認させて」
与一は小声で「使えねえな」と悪態をついたが、それでもスマホを手に取り、『セブンスターを一箱』とメッセージを送ってきた。
「さっさと行ってこいよ。午後から用事があるんだ」
彼は苛立たしげに言った。
用事? 小川礼子と、その息子に会いに行くのだろう。
私は心の中で冷笑したが、顔には何の表情も浮かべなかった。
私は上着を羽織り、すべての窓を閉めた。ただ、寝室のドアだけは閉めなかった。
玄関で、私は最後に寝室の方を一瞥する。
与一はベッドのヘッドボードに寄りかかり、スマホの画面を食い入るように見つめていた。その口元には、私が滅多に見ることのない笑みが浮かんでいる。そんな楽しげな表情は、私に向けられることなど決してなかった。
与一、さようなら。
私は静かにドアを閉めた。雨水が顔を打ち、骨身に染みるほど冷たかった。
雨足は強まり、水滴が傘の表面を激しく叩く。
古いマンションから商店街までは歩いて十分ほど。私は傘を差し、水たまりのできた歩道を進んだ。
空気は湿った匂いに満ち、人影はほとんどない。
「美絵紗さん、こんな天気によく来たねえ!」
中村青果店の主人が、愛想よく私に手を振った。
彼は六十代の老人で、いつも客とおしゃべりするのが好きだ。
「山芋を少し買いに」
私は微笑んで近づいた。
「与一が今日は珍しく家にいるので、山芋とスペアリブのスープでも作ってあげようかと思って」
「この雨じゃあ、客も半分に減っちまったよ」
主人はため息をつきながら、手際よく新鮮な山芋を選んでくれる。
「旦那さんは幸せもんだねえ、こんな良い奥さんがいて」
私は恥ずかしそうにうつむいた。
主人に別れを告げ、時間を確認する。十時三十五分。
家を出てからすでに十五分が経過し、マンションへ戻るにはあと十分かかる。
私の住むマンションは住宅地の東側にあり、ほとんど人が住んでいない。
与一が欲しがった煙草は南側のコンビニでしか買えず、ここからそこへは別の道を通る必要がある。
私は特殊なルートを選んだ——改修中の通りだ。ここには監視カメラが設置されておらず、雨の日はさらに人通りが少ない。
道路は都市再開発計画のために工事中で、路面はでこぼこでぬかるんでいた。
少し先に、工事区域で掘られた仮設の排水溝がある。幅約一メートル、深さ二メートルほどで、作業員たちは数枚の板と警告テープでその場所を簡単に示しているだけだった。
こんな天気では、板はすでに滑りやすくなっており、警告テープも風に吹かれて心もとなく揺れている。
私はこの工事区域を通らなければマンションに戻れない。
排水溝の中に水は溜まっておらず、あるのは積もったゴミと嫌な臭いだけ。私は周囲を見回し、誰もいないことを確認すると、傘を差したままうつむき加減で進んだ。念には念を入れ、わざと小さな石を踏みつける。すると足がぐらつき、私はバランスを失って、排水溝の口へと体が重々しく落ちていった。
「きゃっ!」
私の悲鳴は雨音にかき消された。
数メートルの高さからの落下で、激痛が走る。
我に返り、自分の怪我を確認する。右足は感覚がなく、明らかに腫れ上がっている。おそらく骨折だろう。腕と頬には軽い擦り傷。だが、これではまだ足りない。
山芋がそこら中に散らばったが、拾うことはしなかった。私は意を決し、地面の硬い塊に頭を打ちつける。鋭い痛みの後、生温かい液体が額を伝って流れてきた。
スマホが示す時刻は十時五十分。私はスマホをそばに適当に放り投げ、頭を下にした「意識不明」の状態を保つよう姿勢を整えた。傘が溝の縁に引っかかり、光をいくらか遮っている。
あとは、ただ待つだけだ。
一分一分が一時間のように長く感じられる。私は目を閉じ、発見と救助を辛抱強く待ちながら、心の中で時間を静かに数えていた。
遠くから、消防車のサイレンが微かに聞こえてきた。
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私は現実感を失いかけていた。
「もし...私が本当に死んでしまったら?」













