第9章

11月22日の午後、小林さんからの電話が病室の静寂を破った。

「西野様、秋生様が今週末の親族の集まりに招待したいとのことです」

小林さんの声はどこまでも丁寧だった。

「これが最後になるかもしれない、とおっしゃっています」

最後、か。

スマホを握りしめ、ベッドで午睡をしている母に目を向けた。一週間前と比べて顔色は随分と良くなっている。回復具合は予想以上だと、医者も言っていた。

「分かりました。日時は?」

「明日の夕方6時、秋生様がお迎えに上がります。場所は変わらず、例の別荘です」

通話を切ったあと、私はそっと母の手を撫でた。ブラインド越しに温かな陽光が母の顔に降り注ぎ、すべてが...

ログインして続きを読む