第32章

彼は、彼女が悔しさも怒りも全部胸の奥に押し込めて、帰ってから自分にぶつけるつもりなのだと思っていた。

「彩世!」

新谷寒季は病床の松本凛に構っている余裕もなく、手にしていた林檎をぽいと放り投げると、大股で後を追った。

廊下の角まで来たところで、彼は松本彩世の手首をぐっと掴んだ。

「彩世、聞いてくれ。ちゃんと説明する。俺と凛は本当に何でもない。ただ、俺は――」

「何を説明するの?」

松本彩世は振り向きざま、するりと自分の手を引き抜いた。

切羽詰まった新谷寒季の顔を見つめながらも、その表情は崩れない。むしろ、物分かりのいい穏やかさすら滲んでいた。

「お義兄さんとして妹を気にかける...

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