第37章

「……何だって?」

新谷寒季の顔色がさっと変わった。いったん胸を撫で下ろしたはずの心臓が、また喉元までせり上がる。声まで裏返った。

「どこへ引っ越すって? なんで出ていくんだ? お前……まさか、またいなくなる気か!」

「この別荘、息が詰まるの。ここの空気、好きじゃない」

松本彩世は、彼の怯えた表情を眺めながら口角だけを薄く引き上げ、用意していた言い訳を落とした。

「療養のために環境を変えたいの。まとまったお金を振り込んで。海が見える部屋を一つ、選びに行くから」

「金の話」――それだけ。去るわけじゃない。

新谷寒季は、肺の奥まで溜め込んでいた息を一気に吐き出した。

張り詰めてい...

ログインして続きを読む