第40章

目の前の清冽で落ち着いた男を見つめた瞬間、松本彩世はふっと目の奥が熱くなるのを感じた。

病院での助け舟。スイス行きの手配。そして今、この資産移転の段取りまで。

立花千時という存在は、見えないのに決して破れない網のように、崩れかけた彼女の人生を静かに受け止め続けている。

「千時……ありがとう」

松本彩世は一度、深く息を吸った。声には、飾りのない感謝が滲む。

「あなたがいなかったら、私……この一歩、踏み出せなかった」

「俺に礼はいらない」

立花千時は彼女を見た。深い瞳に、諦めにも似た甘さがわずかに浮かぶ。

少し身を乗り出し、やわらかいのに逆らわせない調子で言った。

「言わなくて...

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