第61章

松本彩世は容赦なく彼の手を払いのけ、感情の起伏ひとつない声で言った。

「まだ食べ終わってない」

新谷寒季は一瞬、言葉を失う。脇に立つ立花千時の、氷みたいに澄んだ表情が視界に入った途端、胸の奥で嫉妬が毒草のように繁殖していった。

「彩世、この店の料理が口に合わないなら、別のところに――」

「立花千時が私を助けて、病院まで送ってくれた。この食事は、そのお礼」

松本彩世は遮り、冷えた視線を新谷寒季へ真っすぐ突き刺す。拒む余地のない強さを宿して。

「私は彼と、この食事を最後までする。騒ぐなら、今すぐ帰る。……その代わり、二度と私を探さないで」

その一言は、新谷寒季の急所を正確に抉った。...

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