第2章

楠木剛志があの夜から姿を消した。

失踪して一週間後、彼の母親が警察署に駆け込んできた。

「息子が椿野の家に落とし前をつけに行くと言ったきり、帰ってこないんです!」

美代子は滂沱の涙を流し、その一滴一滴が受付の机を叩いた。

当直の警官は気のない様子で記録を取る。

「最終目撃時刻は?」

「深夜十一時ごろ、椿野さんの家の近所です!」

数日後、美代子は再び現れた。

今度は、怒りに任せて机を叩きつけた。

「うちの息子を殺したのは、間違いなくこの女子生徒です!」

彼女は私の写真を指差し、震える声で叫んだ。

「あの日、あの子の家から激しい物音と悲鳴が聞こえたって、近所の人たちが聞いてるんですよ!」

田原警部はついに顔を上げ、写真の私に鋭い視線を向けた。

さらに数日後、田原警部が家へ聞き込みにやって来た。

玄関のチャイムが鳴った瞬間、私は台所で皿を洗っていた。

妹の雫が緊張した面持ちで駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん、警察だよ!」

私は手を拭い、深く息を吸い込んだ。

ドアを開けるとき、私はこの上なく自然な微笑みを浮かべていた。

「田原警部、どうぞお入りください」

二人の警官がリビングに入ってくる。田原警部は手帳を取り出した。「楠木剛志さんが失踪した当夜の状況について、お話を伺いたい」

「楠木はあの夜、あなたの家に来ましたか?」

「はい。とても興奮した様子で、私に退学しろと」

自分のことながら驚くほど、私の声は落ち着いていた。

「もし断れば、毎日嫌がらせに来ると。それが本当に怖くて、承諾しました」

「では、あなたの承諾を聞いて彼は帰ったと?」

「はい。満足そうに帰っていきました」

田原警部の目が鋭く光る。

「しかし、向かいに住む田中さんによると、深夜にあなたの家の台所の明かりがついていて、何かを叩き切る音がしたそうですが?」

一瞬、思考が停止し、血の気が引いた。

「警部さん、夜中にスペアリブのスープが飲みたくなっても、罪にはなりませんよね?」

同行していた警官が立ち上がる。

「椿野さん、もし楠木が本当にただ帰っただけなら、なぜ今に至るまで連絡がつかないんでしょうか?」

私は緊張を押し殺して答える。

「私にもわかりません。どこか別の場所へ行ったのかもしれません」

「裏山を捜索してみましょうか?あそこは人気がありませんから」

「裏山」という言葉を聞いて、私の血液は完全に凍りついた。

無意識のうちに両手を強く握りしめ、爪が掌に食い込む。

田原警部は私の表情の変化に気づいた。

「椿野さん、どうしましたか?顔色が優れませんが」

私は平静を装ったが、声はわずかに震えていた。

「いえ、あの人が本当に事故に遭ったのかもしれないと思うと、少し心配で」

田原警部はゆっくりと手帳を閉じた。

「捜査は続けます。何か進展があれば連絡します」

ドアを閉めた後、私は背中を預けて大きく息をついた。

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