第4章
翌朝、田原警部が部隊を率いて裏山へやって来た。
私と雫はその後ろについていく。平静を装ってはいるものの、心臓は太鼓のように激しく打ち鳴らされていた。
捜索は二時間に及び、彼らは土地の隅々まで調べ尽くしたが、最終的に見つかったのはぽつんと佇む一つの墓石だけだった。
『椿野美津子之墓』。
母さんのお墓だ。
墓石の前には、昨晩私が持ってきた白菊が供えられており、朝の光を浴びてひどく目に刺さる。
田原警部は眉をひそめ、どこか諦めたような口調で言った。
「ここには確かに異常はない。あるのは君のお母さんの墓だけだ」
私は目を伏せ、羽のように軽い声で囁く。
「昨日の夜はとても怖くて、母さんに話を聞いてもらいたかったんです」
田原警部は墓地の周りを調べたが、何かを掘り起こしたような痕跡は見つからなかった。彼は私の肩をぽんと叩く。
「どうやら我々の考えすぎだったようだ。邪魔をしてすまなかった」
帰り道、雫は以前のように身を隠すことなく、自分から近所の人たちに挨拶を交わすようになった。
彼女の顔には血の気が戻り、その瞳には再び輝きが宿っている。
「お姉ちゃん、お腹すいた」
彼女は私の袖を引いた。
「スペアリブのスープが飲みたいな」
彼女が再び元気を取り戻した様子を見て、私は心の底から安堵した。
私は優しく彼女を見つめる。
「うん、わかった。お姉ちゃんがスペアリブのスープ、作ってあげる」
雫はついに、あの暗い影から抜け出すことができたのだ。
しかし数日後、奇妙なことが起こり始めた。
私の口の端に膿を含んだ吹き出物ができ、腫れてひどく痛む。夜になると、胃が何かに内側から暴れられているかのように激しく痛んだ。
鏡に向かうと、楠木の悪意が私の体を蝕んでいるように思えてくる。
腕には覚えのない青あざが浮かび上がり、まるで彼が体内で抵抗しているかのようだ。
「きっと気のせい……絶対に……」
私は鏡の中の青白い自分に喃々と語りかける。
雫は家から一歩も出ず、毎日部屋にこもって大学入学共通テストの勉強に励んでいた。
「お姉ちゃん、私、もう落ち込んでなんかいられない。もう一度、大学入学共通テストを受ける」
部屋を掃除しているとき、私はうっかり彼女の机にぶつかってしまった。
参考書が床に散らばり、私が屈んでそれを片付けていると、一冊の日記帳が開いた。
その瞬間、私は息を呑んだ。
彼女は問題を一つも解いていなかった!
ページには『楠木剛志』という名前がびっしりと書き殴られており、その筆跡は歪み、紙の裏まで突き抜けそうなほど力が込められ、怒りに満ちていた。
私は震える手でページをめくる。
最後のページの内容に、私は全身が凍りつくような寒気を覚えた。
『椿野栞』。
私の名前が、力任せに何度も何度も書かれていた。
雫は、私を恨んでいたのだ。
それもそうか。あの夜、楠木が探していたのは私だった。ただ、先生に急に呼び出されたせいで、私は難を逃れた。
私は三年前の真実を思い出す。楠木が探していたのは、本当は私だったのだ。
下校する私を待っていた雫が、間違えられた。
雫はトラウマで休学して留年したため、私たちは同じ学年ではなかった。
私はふと、ある恐ろしい細部に思い至った。
あの夜、楠木を殺した時、雫の手はずっと私の手の甲に重ねられていた。
最初から、最後まで。
ナイフの柄に指紋を残したのは、私だけ!
骨の髄まで凍るような寒気が全身を覆う。
私は地下室に駆け込み、工具箱を開けた。
あのナイフは、とっくに雫が片付けてしまっていた。
『彼女は私を唯一の犯人に仕立て上げ……自分は無実の被害者になった』
私は床にへたり込み、ついに真相を理解した。
雫が現場の処理を自ら買って出たのも、すべては私を身代わりにするための計画だったのだ。
自分が雫の復讐計画における、生贄であることに気づいてしまった。
でも、構わない。これは、彼女への借りなのだから。
私はとうに覚悟を決めていた。
夕食の時、私たち姉妹は向かい合って座っていた。
とても静かで、誰も口を開かない。
「田原警部、ずっとあちこちを調べて、新しい手がかりを探してるみたい」
と雫が言った。
わかっている。あの刑事は執念深く、真っ直ぐだ。このままでは、発覚するのは時間の問題だろう。
雫は箸を置き、黒々とした瞳で私を見据える。
「お姉ちゃん、スペアリブのスープが飲みたいな。新鮮なやつ」
その声色に、私の背筋はぞくりと冷たくなった。
私は一枚のキャッシュカードを雫の前に滑らせる。
「暗証番号は、あなたの誕生日」
雫は訝しげに私を見た。
「お姉ちゃん、どういうこと?」
私は力なく笑う。
「雫、もしまた警察が来たら、全部私一人でやったって言うのよ」
「全部、私のせいだから。あなたはちゃんと受験勉強に集中して。お金のことは心配いらない」
「お姉ちゃんが、ちゃんと用意しておいたから」
雫の瞳に一瞬、複雑な感情がよぎったが、すぐに平静を取り戻した。
彼女は口を開きかけたが、その瞳は底知れぬほど暗く、やがて俯いてしまう。
携帯の着信音が、沈黙を切り裂いた。
田原警部からの電話だった。
「椿野栞さん、すぐに警察署まで来てください」
「廃車のミニバンの中から、楠木剛志の血痕と衣類が発見されました」
胃が、さらに痛む。
異物が、腹を突き破って出てきそうだ。
「君の家から裏山までは車で二十分はかかる。椿野さん、君は一体何を捨てに行ったんだ?」
私は受話器を握りしめ、再び胃に走る激痛を感じながら答えた。
「すぐに向かいます」
電話を切ると、雫がそっと囁いた。
「お姉ちゃん、ありがとう」
彼女の笑顔は、まるで何もなかったかのように、昔のまま無垢だった。
胃の中の異物感はますます強くなっていく。楠木はまだそこにいて、消えてなどいないかのようだった。
