第6章

「思い出しました」

医師の穏やかな導きのもと、深く埋められていた記憶が土石流のように溢れ出した。

私は次々とこぼれ落ちる涙を拭いながら言葉を続ける。

「あの日、桜祭りで、お母さんが珍しく時間ができたから、お祝いに美味しいものを食べに連れて行ってくれるって言ったんです」

田原警部はペンを止め、医師もカルテから手を離した。

「お母さんが一緒にいてくれることなんて滅多になかったから、私、すごく嬉しくて」

私の声が震え始める。

「でも、姉の栞が学校で用事があるって言うから、私は高等部に姉を探しに行ったんです」

あの午後の陽光は今でも鮮明だ。桜の花びらが廊下に舞い散る中、私は...

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