第8章

立ち去る間際、橘慎也は躊躇いがちに私を見た。

「雫、楠木剛志は……本当に死んだのか?」

私は訝しげに彼を見返す。

「どうしてそんなことを聞くんですか?警察が捜査しているのでは?」

「ただ、あいつがまた君を傷つけに来るんじゃないかと心配で」

橘慎也は緊張した面持ちで拳を握りしめる。

「あんな人間のクズ、死んで当然だ。死に場所すらないはずなんだ」

私は彼の手を慰めるように軽く叩いた。

「心配しないで、慎也先輩。あの人が現れることはもうありません」

その言葉を口にした途端、脳内に眩暈が走った。慣れ親しんだ感覚が、潮のように私の意識を洗い流していく。

再び目を開けた時...

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