第4章

 私はスマホを構え、そのピンクのレースの下着をあらゆる角度から撮影した。

 一枚一枚、鮮明に。

 それから透明な保存袋を見つけ出し、慎重にそれを入れた。

 作業を終えた直後、母から電話がかかってきた。

「紗英、翔真くんまだ朱里ちゃんを連れてこないの? 家を出てからもう一時間以上経つわよ」

 スマホを握る手に力が入る。心臓が重く沈んだ。

 どこへ行った?

 答えはわかっているが、彼自身の口から聞かなければならない。

 深呼吸をして、翔真に電話をかけた。

「もしもし、紗英?」彼の声は明るい。

「お母さんが、まだ朱里が来ないって言ってるんだけど」

 電話の向こうが一瞬沈黙し、背後から微かな雑音が聞こえた。

「あ、言うの忘れてた」翔真の声は変わらず穏やかだ。「朱里が急にお腹が痛いって言い出してさ、病院に連れてきたんだ。少し様子を見なきゃいけないらしくて、帰るのが遅くなるかもしれない」

 私はもう一台の端末でインスタグラムを開いた。

 遠藤葉月が三分前に更新したストーリーが目に飛び込んでくる。

「一日だけの三人家族!」

 写真は、しゃがんだ彼女の頬に、左右から翔真と朱里がキスをしているものだった。背景には潮見市こども芸術館のシンボル――巨大なカラフルなキリンのオブジェが写っている。

「朱里の具合はどうなの?」

 声を震わせないようにするのが精一杯だった。

「今は落ち着いてるよ。先生が診てくれてる。朱里と代わろうか?」

「ええ」

 すぐに、受話器から娘の弱々しい声が聞こえてきた。

「お母さん……」

「朱里、どこが痛いの?」

「お腹が痛いの……」朱里の声は甘えを含んで弱々しい。「お医者さんがもう少し様子見ようって。優しい先生だから大丈夫だよ、お母さん心配しないで。お父さんと帰るの遅くなっちゃうかも」

 理解できない。

 男が浮気するのは理性より本能が勝る生き物だからと、百歩譲って理解しよう。

 でも、なぜ私が苦労して産み育てた娘まで、父親の不倫に加担して私を裏切るの?

 私はどれだけ母親失格だったというのだろう。実の娘が、父親と愛人のデートを喜んで手助けするほどに。

 喉の奥の嗚咽を飲み込み、私は静かに尋ねた。

「朱里、お母さん、一つだけ聞きたいことがあるの」

「なあに?」

「私たちは親子でしょう? 誰かのために、お母さんに嘘をついたりしないわよね?」

 電話の向こうが静まり返った。

 私はスマホを強く握りしめた。指の関節が白くなるほどに。

 この期に及んでも、私はまだこの娘に最後の希望を抱いていた。

 私の味方をしてくれるなら。

 本当のことを言ってくれるなら。

 これまでの嘘をすべて許し、離婚の際には全力で親権を取りに行こうと。

「朱里はお母さんが一番大好きだもん、お母さんに嘘なんてつくわけないよ」

 娘の声は甘く、そして迷いがなかった。

「あ、お医者さんに呼ばれちゃった。バイバイ、お母さん!」

 通話終了の画面を見つめながら、私はふっと乾いた笑い声を漏らした。

 この数年、私が家族のために捧げてきたすべてが、極上の皮肉に思えてくる。

 翔真の裏切りが怒りと悲しみなら、朱里の嘘は、骨の髄まで凍りつくような絶望だった。

 部屋を見渡す。

 私が整えたこの家。今はどの場所を見ても吐き気がする。

 私はチャックも閉めていないスーツケースを持ち上げ、引き出しから記入済みの離婚届を取り出し、ダイニングテーブルの中央に丁寧に置いた。

 そして振り返ることなく、家を出た。

 車を走らせ、一番近いホテルへ向かう。

 チェックインを済ませると、私は新しい投稿を作成し、あの高画質の写真をアップロードした。

「自宅の寝室で発見された落とし物です。お心当たりのある女性の方、ご連絡ください」

 すぐにコメントがついた。

「寝室で他の女の下着? ちょっと想像したくない真実だわ」

「そういえばここ数日、遠藤先生がそちらのお宅に出入りしているのを見かけましたが……」

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