第2章

電話が鳴った。

「ママ、いつ帰ってくるの?」

「なちゃん、ママはね、今日ちょっと遅くなるの。看護師さんの言うこと、ちゃんと聞くのよ?」

私は電話越しに娘に言い聞かせた。

「うん、ママ。会いたいよ」

なちゃんの声はいつも聞き分けがよくて、胸が締め付けられる。

私は結局、彼に黙って子供を産むことを選んだ。

しかし、その子は重い病気を患っており、定期的な輸血が必要だった。医師からは、最終的には骨髄移植が必要になるかもしれないと言われている。それらの治療費は、私にとって重い負担となっていた。

なちゃんの治療費を捻出するため、私はできることなら何でもやった。厚い面の皮で薬学部の同級生に金を借り、高級会員制クラブでVIPの接待係として働いた……。睡眠は贅沢品となり、胃は常に鈍く痛んだが、立ち止まるわけにはいかなかった。

他のことを気にかけている暇など、私にはなかった。

この一年は、私の人生で最も貧しく、最も辛い一年だった。

数日後の夜、私がクラブで仕事を終えようとしていたところ、入り口でマネージャーの野村さんが私を呼び止めた。

「立花、もう一人、君を指名しているVIP客がいるんだ」

「野村さん、今日は本当に疲れていて……どうにかなりませんか」

「すまない、立花」

野村さんは厳しい表情で言った。

「これはオーナーからの特別な指示でね。とても重要なお客様だから、君にどうしてもと」

私はドレスを整え、VIPルームへと足を踏み入れた。そして、その場で凍りついた。

姫川凛と彼女の友人たちが、まるで動物園の見物でもするかのように私を品定めしながら座っていた。

「あなたが星野立花?」

女の一人が、侮蔑に満ちた口調で尋ねた。

「月影様のかの有名な初恋の相手?」

私は怒りを堪え、注文を伺うだけで済ませた。

「何よその態度。話しかけてるのが聞こえないの? いい気にならないでよ」

その女が声を荒らげた。

姫川凛は軽く彼女の手に触れた。

「やめなさいよ、美香。立花さんはお仕事をしてるだけじゃない」

私は俯き、指で固く伝票を握りしめた。

その時、女が突然ウイスキーのボトルを取り出し、私に言った。

「これを一気飲みしたら、二十万あげる」

姫川凛は止めるふりをした。

「美香、ただ見に来るだけで、立花さんを困らせないって約束したじゃない」

彼女の目に浮かんだ得意げな色は隠しきれておらず、私には容易に見て取れた。

「業界では、彼女は金持ちを誑かすのが得意だって有名だけど……」

姫川凛は友人に小声で言った。

「隆志も私が単純すぎるから、彼女にいじめられるんじゃないかって心配してて。でも大丈夫よ、私はただ一度見てみたかっただけだから」

彼女が、月影隆志は今や私を嫌い、彼女を好いているのだと見せつけたいのだと理解した。

だが今の私が考えているのは、その二十万円でなちゃんの薬が買えるということだけだった。

「ください」

私は手を伸ばし、酒瓶を受け取った。

「星野さん、まさか本当に飲むつもり? ウイスキーを丸々一本よ?」

姫川凛が心配するふりをする。

「立花、あんたそんなにお金に困ってるの?」

美香が嘲笑した。

「昔、月影家から五千万もらったって聞いたけど?」

私は彼女を無視し、ボトルを手に取り、仰いで呷った。

強い酒が喉と胃を焼く。痛みなど感じないかのように、私は一言も発さずボトルを空にした。

皆が呆然と私を見つめる中、姫川凛がわざとらしく心配そうな声を出した。

「立花さん、どうしてお金のために、そんなに自分を粗末にするの?」

彼女は友人のほうを向き、小声で言った。

「隆志は、あなたみたいな女が一番嫌いなのよ」

私は胃の痛みを必死に堪え、手を差し出した。

「彼が誰を嫌おうが好きだろうがどうでもいい。私が気にするのは約束のお金だけ」

姫川凛は一瞬呆気にとられたが、すぐに言った。

「その二十万は私にとってはお小遣い程度だけど……でも、やっぱりあげられないわ、立花さん。あなたは堕落しすぎてる。これ以上あなたを堕落させるわけにはいかないもの」

彼女の友人が嘲る。

「さっきのは冗談よ。お金なんてあげない。あんたに何ができるっていうの? 訴える?」

怒りと屈辱が、体内で爆発した。

私は酒瓶を掴むと、床に叩きつけた。割れた破片が姫川凛の脚を切り裂いた。

彼女はすぐに泣き出し、個室にいた他の女たちは水を打ったように静まり返った。

「あなた、気でも狂ったの!?」

美香が金切り声を上げた。

突然、個室のドアが押し開けられた。

月影隆志が戸口に立ち、氷のように冷たい視線で私を見ていた。

無様な姿を彼に見られた。それはどんな屈辱よりも私を辛くさせ、私は顔を背けた。

「隆志!」

姫川凛はすぐさま彼の胸に飛び込んだ。

「この人、狂ってるわ! わざと私を傷つけたの!」

月影隆志は姫川凛のそばに歩み寄り、優しく彼女を抱きしめて涙を拭った。それから私に向き直ると、氷のように冷たい声で言った。

「立花、俺の目の前で、誰をいじめてる?」

それは全て、かつて彼が私にしてくれたことだった。彼は誰かを好きになると、その相手の悪口を少しでも言われることを許さなかった。

説明しようと思ったが、無意味に思えた。

「金が欲しいか? いいだろう、まず謝れ」

彼は命じた。

姫川凛は月影隆志の腕の中で忍び笑いを漏らし、得意げに私を見ている。

私は考える間もなくガラスの破片を拾い上げ、自分の腕を切りつけた。そして彼女に謝罪した。

「姫川さんを傷つけてしまい、申し訳ありませんでした」

そして手を差し出す。

「ください。約束の二十万円を」

月影隆志の目の縁が赤くなった。

姫川凛は彼の顔色を窺い、少し不満そうにキャッシュカードを私に投げつけた。

「立花さん、私がお金をあげるのは、あなたみたいに、はした金のために見苦しい真似をしたくないからよ」

「本当にお優しい方ですね。感謝いたします」

私はお世辞を言って彼女を褒め称えた。

血がぽたぽたと床に滴る。私は近くにあったティッシュで床を拭うと、カードを拾い、背を向けて立ち去ろうとした。

突然、月影隆志が私の腕を掴んだ。そして怒りを込めて言った。

「立花、てめえ、痛くねえのか? 金がなきゃ死ぬのかよ?」

腕は確かに少し痛んだ。だが、私が耐えなければならない痛みはあまりにも多すぎた。心が軋み、胃が痙攣する中で、腕のこの程度の痛みなど、取るに足らない。

「ええ、お金に困ってます」

私は彼の手を振り払った。振り返らずに。

「私はずっと金好きな女よ。月影隆志、あなたはずっと前から知っていたでしょう?」

「自分のことだけ考えてなさい。それと、あなたの婚約者もちゃんと管理して。もう二度と私にちょっかいを出さないで」

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