第92章

妃那視点:

ある程度まで歩いて、金彦の気配がすっかり背後に遠ざかったところで、ようやく足を止めた。

さっきより夜が深くなっている。風が頬を撫でていき、ひやりとした冷たさが胸の奥に淀んでいた息苦しさを少しずつ攫っていった。

その横から、ふいにシャンパンのグラスが差し出される。

「一杯どう?」

美波が首をかしげ、心配そうな目でこちらを覗き込んでくる。

私は口元だけで笑って、グラスを受け取り、ひとくち含んだ。

「ありがと」

「そんな他人行儀にしないでよ」

美波は肩をすくめ、私と同じように欄干に肘を預けながら、しみじみと言う。

「時間が経つのって、本当に早いね。昔は絶対ありえない...

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