第10章

高校卒業後、私と中村正樹はそれぞれ別の大学へと進学した。彼は優秀な成績でT大学の物理学科へ、私は同じ都内にあるトップクラスの私立商学部へと進んだ。

この知らせを聞いた父の櫻井健太は欣喜雀躍し、すぐさま青山の高級レストランを貸し切りにしてお祝いの宴を開いた。

「娘がトップの商学部に受かったぞ! 将来は俺の会社を継ぐんだ!」

父はワイングラスを掲げ、顔中に誇らしげな笑みを浮かべていた。

その夜、正樹も来てくれた。

彼はシンプルな白いシャツ姿で、スーツ姿のビジネスマンたちの中にいると場違いに見えたが、それでもあの静かな佇まいは変わらなかった。

そしてその日、私は偶然知ること...

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