第5章

週末、私は中村正樹を訪ねることはせず、名門と名高い空手道場の前に足を運んだ。

東京に来てからというもの、空手の稽古をする機会がなかったので、今日ようやく時間ができ、全国にその名を轟かせるこの道場を見に来たのだ。

「申し訳ありません、お嬢さん。本日は会員様の稽古日となっております」

入口のスタッフが丁重に私を制した。

「でも、そちらの掲示板には、今日、体験レッスンがあると書いてありますけど」

私は入口の掲示板を指差した。

スタッフは気まずそうに笑った。

「ああ、それは先月の告知でして、更新を忘れておりました。誠に申し訳ございません」

私は少しがっかりした。

空手...

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