第8章
校内で突如、佐藤宗樹が私を追いかけているという噂が広まった。
廊下で二、三人ずつ集まった女子たちが、わざと声を張り上げ、通りかかった中村正樹に聞こえよがしに話している。
「あの転校生、自分の婚約者の顔も分からないなんて、笑えるよね」
「貧乏学生を財閥の御曹司と間違えるなんて、田舎から来た芋女くらいしかやらないわよ」
私は教室の入口に立ち、正樹が俯きながら足早に通り過ぎていくのを見た。その背中は、まるで目一杯に引き絞られた弓のように張り詰めている。
あの言葉の数々は、明らかに彼に聞かせるための矢だった。
午後の体育の授業が終わり、私は急いで正樹の姿を探した。
教室、図...
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