第48章

岸江立人は横顔のまま彼女を見た。瞳の奥に、複雑な色がよぎる。痛ましさ――それ以上に、言葉にできない何か。

彼はそっと手を上げ、潮風に乱れた髪を指先で払った。触れる動きは驚くほど優しい。

「もう手は打ってある。いつ出発したい?」

宮原知子は目を閉じ、深く息を吸う。

「三日後。ここを離れる。ぜんぶ新しい場所へ」

それは過去に別れを告げ、未来に宣戦布告するような声音だった。

岸江立人はただ頷き、余計なことは訊かない。

「わかった。全部、俺が整える」

深夜の海は、青い光を薄く湛えていた。

少し離れた暗がりに、控えめな黒のマイバッハが停まっている。車体は夜に溶け、意識しなければ気づか...

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