第5章
車は私が借りている小さなアパートの下に停まった。
「知春」
森儀光が静かに言った。
「何か手伝いが必要なら、いつでも連絡してくれ」
私は頷いて、車を降りた。
でも、もう誰にも連絡することはないだろうと分かっていた。
これからの道は、私一人で歩ききらなければならない。
「知春、君と森先生は……」
安信の声が背後から聞こえ、振り返ると、彼は黒いセダンのそばに寄りかかり、指には燃えかけの煙草を挟んでいた。
オレンジ色の炎が彼の整った顔の上で揺らめいていたが、その瞳には冷たさしか宿っていなかった。
「何の関係もありません」
私の声は恐ろしいほどに平坦だった。
...
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