第8章

西村本家の庭では、樹齢百年の桜の木が秋風に揺れ、葉の落ちた枝を寂しげに広げている。

私は回廊の木の階段に腰を下ろしていた。胃の痛みが潮のように繰り返し襲ってくるが、もう慣れてしまった。

安信の足音が止まる。

彼が近づき、私の隣に座ろうとする気配を感じたが、私は少し横にずれてその接触を避けた。

「知春……」

「安信さん」

私は彼の言葉を遮り、振り向いてその目を真っ直ぐに見つめた。

「あなたは桜の猫だったまどかを、霜子さんにあげたのではありませんか?」

安信は一瞬、虚を突かれたようだった。

「まどか? 何だ、まどかって?」

「桜の猫です」

私の声が震え始めた。...

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