第254章

男はくすりと笑い、その瞳の奥に微かな優しさと甘受の色を滲ませた。

「明日の夜でいいか? 迎えに行く。ついでに部屋も上がらせてもらうぞ。お前がここに越してきてから、まだ一度も中を見たことがないからな」

その要求を、渕上純は拒まなかった。神原文清にはこれまで散々世話になったし、今はこうして恋人同士の関係でもある。正直なところ、彼氏が部屋に上がることくらい、あって然るべきことだろう。

「ええ、分かったわ」

幾つか他愛のない会話を交わしてから、渕上純は通話を切った。

ソファに腰を下ろした彼女の胸中は、どことなく落ち着かない。なんだろう、この「親への挨拶」のような緊張感は。その予感は強烈で、...

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