第279章

姫野雅人は何かに気づいたようだった。まるで人目を避けたがっているような素振りで、渕上純に声をかける。

「純ちゃん、ちょっと場所を変えようか。ここじゃ人が多すぎる」

正直なところ、渕上純は少し迷っていた。今回の目的を果たせず、落ち込んでいたため、世間話をする気分ではなかったのだ。

だが、さっき姫野雅人が口にした「榎本先生に会わせてやる」という言葉が、消えかけた希望に再び火を灯した。だからこそ、彼女はその提案に乗ることにしたのだった。

とはいえ、彼が本当に榎本先生と知り合いだとは信じきれていない。

せっかくここまで来たのだ。手ぶらで帰るわけにはいかない。

その傍らで、老人がふんと鼻を...

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