第65章

誰と話しているのか、何を話しているのかは聞き取れないが、神原文清の顔色を見る限り、今の彼が最悪の機嫌であることは明白だった。

そこで彼女はベッドを降り、バスローブを羽織ってテラスへと向かう。すると、神原文清の話し声が鮮明に耳に飛び込んできた。

神原文清のそんな表情を見るのは初めてだった。口では冷酷な言葉を吐いているのに、その横顔には一縷の期待と緊張が滲んでいるのだ。

「俺たちがやり直すなんてあり得ない。お前は、俺をこのD市中の笑いものにしたんだぞ? 違うか?」

「ああ、恋人はできた。お前には関係ないだろ」

……

「本当におめでたい奴だな。俺の想いは永遠だと思っていたのに、それを自...

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