第82章

小林海が立ち上がり、軽く会釈する。

「どうしてここに?」

風見紬が神原文清の腕に絡みつき、こちらへ歩み寄ってくる。二人で一緒にやって来たと言うよりは、風見紬が神原文清を強引に引っ張ってきたと言うほうが正しいだろう。

渕上純は無意識に頬の涙を拭うと、同じように立ち上がった。

もっとも、彼女に風見紬へ挨拶をするつもりなど毛頭ないが。

「この間の傷がどうも痒くてね。文清が心配して、破傷風の注射に連れてきてくれたの」

誇らしげな表情で風見紬が答える。その視線は、わざとらしく渕上純に向けられていた。

だが、渕上純は意に介さない。風見紬の本性など、とっくに見抜いているからだ。

神原文清は...

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