第86章

思いのほか、渕上純の言葉は効果てきめんだったようだ。小林香理はそれを真に受けただけでなく、少しばかり怯えてさえいた。彼女は捨てられた子犬のような目で、哀れっぽく言った。

「ちゃんとお勉強するから……お姉ちゃん、私のこと嫌いにならないで。だってお姉ちゃん、すごく綺麗なんだもん」

「『先生』と呼べ」

小林海が横から口を挟む。

「先生ぇ……」

小林香理は不満げに呟くと、小林海に向けて可愛らしい白目をむいてみせた。

小林海は声を出さずに笑い、妹を見るその眼差しは溺愛そのものだった。

喧嘩するほど仲が良いと言うべきか、相思相愛の兄妹だ。その様子を眺めながら、渕上純の心も温かくなっ...

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