第87章

「何を競い合っているの?」渕上純はそっと問いかけた。

小林香理は愛らしい目を伏せ、ぷりぷりと怒っていた。「ピアノよ。私はまだグレード五級なのに、同級生の子は七級なの。私よりずっと難しい曲を弾くんだから。私も難しいのに挑戦してみたけど、全然弾けなかった」

渕上純はくすりと笑い、身をかがめて彼女を優しく抱きしめた。

「香理ちゃん、今のあなたの実力は五級で、あの子たちは七級でしょう? それに七級の曲を弾くなんて、最初から比べようがないわ。たとえ難易度が違う曲でも、上手に弾ければ同じくらい素晴らしいのよ」

だが、小林香理はまだ腹の虫が収まらない様子で、腕を組んで精一杯の威嚇――いわゆる「キレ...

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