第64章

  周りの人間のほうがよほど肝を潰していた。みな椅子の上へよじ登り、床に溜まっていく血の水位がじわじわ上がっていくのを見て、悲鳴を上げて泣きじゃくる。まるで世界の終わりだ。

  高瀬拓真はしゃくり上げる小さな男の子を抱え、同じく椅子の上でしゃがみ込んでいた。老婆も顔面蒼白で、今にも気を失いそうだ。

  拓真は神崎飛鳥を盗み見る。彼女は相変わらず無表情――なのに、不思議と恐怖が薄れていた。さっきまでの、手の打ちようのない無力感や絶望が、少しだけ遠のいた気がする。

  そして窓の外へ目をやる。

  いつの間にか、外は果てしない闇ではなくなっていた。高層ビルが並び、車が行き交い、歩道には人...

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