紹介
彼女の頭の中は、ただひとつのことでいっぱいだった。
百年ものあいだ墓穴に隠しておいた金銀財宝と冥銭を取り戻すこと!
ところが、人間として生きるのは想像以上に大変だった。
学歴もなければ職歴もない。仕事は見つからず、お金もない。住む場所に選んだのは、幽霊が出るとうわさの廃ビル。ベッドなんて買えるはずもなく、夜は棺桶で眠る毎日だ。
着るものは二着の防寒着を着回し、顔を洗うにもトイレまで行かなければならない。大福ひとつ買うのにも、財布とにらめっこ。
しかも、運は最悪。行く先々で怪異に遭遇し、災難ばかりが降りかかる。
そんなある日、飛鳥はようやく仕事にありついた。勤務先は、なんとお化け屋敷!
幽霊だった彼女にとって、そこはまさに適職……のはずだった。
やがて彼女は、持ち前の能力を生かして怪異を退治し、誘拐された大スターを救い、凶悪な悪霊に立ち向かうことに。仕事のついでに小遣い稼ぎまでできるなんて、一石二鳥!
どんな災難に見舞われようと、どんな怪異が立ちはだかろうと、飛鳥は決して諦めない。
すべては、あの墓穴に帰るため。
これは、極貧元幽霊が人間社会を生き抜き、財宝を取り戻すまでの、波乱万丈な怪異退治奮闘記!
怖いのは幽霊じゃない。お金がないことだ。
チャプター 1
漆黒の深夜、薄い霧がふわりと立ちのぼり、冷え切った空気の中にじわじわと広がっていく。まるで天地そのものが霧色に沈んでしまったかのようだった。
一台の四駆が道路を疾走する。濃霧をぶち破って突っ走るその勢いは、背後から洪水か猛獣でも追ってきているみたいだ。
そんな深夜の静かな路肩に、白い服の長髪の女が立っていた。
闇の中で顔はよく見えない。ただ、背筋を伸ばしてまっすぐ立ち、腕を伸ばして空中でゆらゆらと振っている。まるであの四駆を呼び止め、便乗しようとしているかのように。
ブオォン――
四駆は女の横を猛スピードで通り過ぎ、冷たい風だけを置いていった。
止まる気配などない。むしろさっきより速度が上がったようにさえ見え、あっという間に霧の中へ消えた。
……
二十分後。
同じ四駆は、また同じ場所で路肩の長髪の女を見た。
女はさっきと同じ姿勢のまま、腕を伸ばしてゆらゆら、ゆらゆら。まるでそれしかできないみたいに。
今度はさらに速度を上げ、ブオォンと排気を残して走り去る。
……
さらに二十分後。
四駆は長髪の女を視界に入れた瞬間、キィィッと急ブレーキ。急ハンドルで反転し、潔いほどの決断で引き返した。情け容赦なし。
バックミラー越しに、女が白い歯を見せて笑ったように見えた。
濃霧の中で浮かぶその奇妙な笑みが、背筋をぞくりと冷やす。
……
車内の空気も、当然よくはない。
助手席の寺田大輔は後方を振り返った。そこにはもう長髪の女の影はない。
だが、この道がどんどんおかしくなっている。前にも後ろにも車が一台もいない。少し先は濃い霧で、何も見えない。
この道路はA市へ向かう幹線だ。普段なら賑やかで、寺田も何度も走ったことがある。こんな静まり返った空虚な状況など、見たことがなかった。
まるで天地の中に、彼らの車だけが取り残されたみたいだ。
寺田は震える声で言った。
「……もう、撒けたよな?」
運転席の比良恒一は顔を強張らせ、バックミラーをちらりと見た。
「……わからない」
寺田は視線を戻し、恐る恐る言う。
「俺たち、ずっと車一台も見てないんだぞ……どうすんだよ、どうすんだよ?! 俺たち、死ぬのか……」
彼らはあの女に、もう五回も遭遇している。
一時間以上走っているはずなのに、目的地には着かない。毎回、同じ地点に戻ってきて、そしてあの女が手を振っている。
最初に見たときは気にも留めなかった。
こんな山奥、道沿いに家一軒ない。そこに突然、女が手を挙げていたら――賢い人間なら停まらない。
そもそも比良恒一も寺田大輔も善人ではないし、厄介事に首を突っ込む趣味もない。無視して当然だった。
だが、二度目が来た。
二度目に見たとき、寺田はまだ同一人物だと気づかず、笑って茶化した。
「恒一、まだまだモテるじゃん。真夜中でも相乗り希望がいるとかさ。どうせ同じ方向なら、いいことしてやれば?」
比良は答えなかった。ただ、ハンドルを握る手に力が入り、速度を上げて突っ切った。
三度目。
鈍い寺田でさえ、さすがに気づいた。
――同じだ。
あの女、前の二回とまったく同じ。
頭皮がぞわっとし、鳥肌が一気に立つ。寺田は言葉を失った。
比良も同じだった。
彼は寺田より慎重で、二度目の時点で異常に気づいていた。どうしてこの女が、また前方にいる?
周囲の景色は見知らぬようで、どこか見覚えもある。比良は即座に判断し、アクセルを踏み込んだ――だが、少し走っただけで、またあの女が現れた。
アクセルはほぼ床まで踏み抜いている。
それでも、しばらくすると必ず、道端で手を振る長髪の女が見える。
そのとき比良は思った。
――道に化かされてる。そういう類のやつだ。
五度目に見たとき、彼は緊急で反転し、逆方向へ走った。
さすがに今度は戻らないだろう。そう信じたかった。
寺田は泣きそうになりながら、揺れる車内でシートベルトを締め、スマホを取り出して助けを呼ぼうとした。
だが、画面を見た瞬間、さらに絶望した。
「やべぇ! 圏外だ! 電話が繋がらねぇ!」
比良は歯を食いしばって短く答えた。
「……知ってる。二回目で試した」
寺田は声を震わせる。
「俺たち……もしかして――」
比良の顔色が鉄みたいに硬くなる。
「変なこと言うな。この世に幽霊なんているわけない。自分で自分を脅かすな。……特殊な磁場にでも入ったんだろ」
寺田は目を見開き、縋るように言った。
「特殊な磁場って、女も生むのかよ?」
比良は黙った。
停めるわけにはいかない。速度を落とすわけにもいかない。とにかくこの忌々しい場所から抜け出す、それだけだ。
寺田も同じだった。
車が止まった瞬間、死ぬ――そんな気がしてならない。
だが突然。
「うわぁぁぁっ! やべぇぇぇ!」
寺田が叫んだ。
比良はびくっとし、顔をしかめる。
「うるさい! 落ち着け!」
「落ち着けるかよ!」寺田は半泣きで叫ぶ。「ガス欠だ! もうガソリンがない!」
比良は言葉を失った。
……終わった。
何度目かの遭遇。
長髪の女は相変わらず腕を振っている。疲れ知らずみたいに。顔にはあの奇妙な笑み。
見ただけで背筋が寒くなる。
寺田は自分の肩を抱き、怯えながら言った。
「なあ……もうさ、乗せてやろうぜ。何周もしてるのに、あいつ別に何もしてこない。もしかしたら害する気ないのかも……俺らが助けたら見逃してくれるとか……。ガス切れたら俺ら歩いて逃げられないし、怒って殺しに来たら――」
比良は寺田を睨みつけた。
そして車は長髪の女の横を通り過ぎ、少し先――女の姿が見えなくなる地点で路肩に停めた。
比良は苛立たしげに髪を掻きむしる。
こんな胸糞悪い目に遭うなら、死んでも夜道なんか走らなかった。
「目的がわからない相手に、のこのこ近づけるか。どう死ぬかもわからないだろ!」
スマホをいじって助けを呼ぼうとするが、電波は一切ない。110も繋がらない。
まさに、天に叫んでも届かず、地に願っても響かない。
比良は時間を計算した。
「俺ら、0時過ぎに出て……女に遭ってから二時間ちょい。あと二、三時間で夜が明ける。……幽霊だなんだってのは、日光が苦手なんだろ。朝まで耐えれば助かる」
ここで待つ。朝が来るまで。
それが最善だと、比良は自分に言い聞かせた。
だが、いくら話しても寺田が返事をしない。
比良は眉をひそめ、寺田を見る。
寺田はシートベルトを握りしめ、前方を凝視していた。
何か、とんでもなく恐ろしいものを見た顔で。
比良の胸が、どくんと跳ねた。
ゆっくりと振り向く。
――いた。
長髪の女が、車の前に立っている。
そして、奇妙な姿勢のまま、こちらへ歩いてくる。
一歩。
二歩。
近づいてくる。
比良は誓って言える。
二十年以上イキってきた。怖いものなんて、家の親父くらいだと思っていた。
だが今は、手が震えてしょうがない。
彼はガタガタと手を動かし、エンジンをかけようとした。
寺田も我に返り、「早く! 早く出せ!」と泣き叫ぶ。
だが焦るほど、ミスは増える。
――エンジンがかからない。
コツ、コツ――
コツコツコツ――
窓を叩く音がした。
比良は身体を硬直させたまま、首だけをぎこちなく回す。
長髪の女が窓の外に立っていた。
それなりに整った顔立ち。だが血の気のない真っ白な肌。黒々とした瞳。
口元を引きつらせ、白い歯を見せて笑っている。その笑みは、無理やり引っ張ったみたいに不自然だった。
なのに、言葉遣いだけは妙に丁寧だ。
「こんにちは。すみません、乗せてもらえませんか?」
比良の歯が、カチカチ鳴る。
「す、すみません……ちょっと、都合が……」
女は眉をひそめ、首を傾げた。
そしてポケットを探り、何かを取り出して差し出す。
「お金、払います。急いで帰らないといけないんです。乗せてください」
寺田はもともとひどく怯えていたが、差し出されたそれを見た瞬間、さらに顔を引きつらせた。
――札じゃない。
死人に燃やす紙銭だ。
寺田は一言も発せず、白目を剥いてその場で気絶した。
ドサッ。
比良は寺田が倒れる音を聞き、心の底から思った。
……俺も気絶したい。
「い、いえ……結構です。お金はいりません……」
女は、なぜ彼がそこまで震えているのか理解できないらしく、手元の紙銭を見下ろした。
そして「あっ」と小さく声を漏らす。
「すみません。間違えました」
紙銭をしまい、またポケットを探る。
今度は別の紙を取り出し、差し出した。
「これなら大丈夫ですか? 足ります?」
比良の目の前に出されたのは、日本円だった。
……怖さが増した。
こんな芸当、普通じゃない。
受け取った瞬間に命を持っていかれる、そんな気がしてならない。
「い、いえ! 本当にいりません!」
「ありがとうございます。じゃあ、乗せてくれますか?」
「……」
断れるのか?
断ったら、怒って食われるんじゃないのか?
比良は、女の真剣な顔を見た。黒い瞳。白い頬。
拒否したら最後、血盆の口で一口――そんな妄想が脳裏をよぎる。
……寺田、役に立たなすぎる。
……
長髪の女は、車に乗り込んだ。
運転席の後ろ、後部座席に座る。
歩き方はぎこちなく、遅い。まるでゾンビみたいに不慣れな動きだった。まるでこの身体の使い方を、まだ覚えきれていないみたいに。
女が乗った途端、車内の温度が数度下がった気がした。
比良は目ざとく、女の口元が吊り上がるのを見た。
あの、満足げで不気味な笑み。
……終わった。
「座りました。出してください」
比良は、これは町へ向かう道じゃない、死へ向かう道だと思った。
震える手でエンジンをかける。
そのとき、寺田が幽霊みたいに目を覚ました。
頭を押さえ、窓の外を見る。女の姿はない。比良は発進しようとしている。
寺田は涙目で喜んだ。
「恒一! あの長髪の女、いなくなったのか?! 行った?!」
比良が必死に目で合図した、その瞬間。
後部座席から、女の声がふわりと落ちた。
「私のことですか? 行ってませんよ」
闇の中、白い顔と黒い瞳がこちらを見て笑う。
寺田は固まった。
次の瞬間――
バタン。
白目を剥いて、また気絶した。
比良は天を仰ぎたい気分だった。
女は首を傾げる。
「この人、どうしたんですか?」
比良は震える声で答えた。
「……大丈夫です。眠いだけです」
女は少し考えたが、追及しなかった。
「そうですか。もう遅いですし、寝るのは当然ですね。あなたも寝たいですか?」
比良は喉を鳴らして唾を飲み込む。
「……いえ、寝たくないです」
「わかりました。じゃあ、行きましょう」
「……はい」
比良は車を走らせた。
速くすべきか、遅くすべきかもわからない。ただ、早く朝日が出て、後ろの女が消えてくれることだけを祈っていた。
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アミーは彼女の人生に入り込み、パックの生活に引き戻すアルファの魅力に抗えない。彼女は長い間感じなかった幸せを見つけるだけでなく、ついに彼女の狼も目覚める。フィンレイは彼女の運命の相手ではないが、親友になる。パックの他のトップ狼たちと共に、彼らは最高で最強のパックを作るために働く。
パックの順位を今後10年間決定するパックゲームの時が来ると、アミーは古いパックと向き合わなければならない。10年ぶりに彼女を拒絶した男性を見たとき、彼女が知っていたと思っていたすべてが覆される。アミーとフィンレイは新しい現実に適応し、パックのための道を見つける必要がある。しかし、この予想外の展開は彼らを引き離してしまうのだろうか?
元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。
彼女はもう、疲れた
十年ものあいだ、私は幽鬼のようにこの豪邸に閉じ込められ、身を削って家計を支え、彼の吐くその場しのぎの嘘を飲み込み、彼が一片の心も寄せたことのない結婚生活を守り続けてきた。彼は確信していたはずだ、私が逃げ出せるはずがないと。母の癌治療費は、すべて彼の施しで成り立っていたのだから。
それは間違いじゃない。たしかに、金は必要だった。
でも――私はもう、残りの人生すべてを、彼が誰かを愛するのを見て過ごすために生きたくはない。
離婚届は、もうテーブルの上にある。今度こそ、私は懇願しない。縋りついたりもしない。
私が選ぶのは、私自身だ。
人生を謳歌する
冷酷非道な大物との政略結婚を強いられ、私は開き直った
ヤクザの家に生まれた宿命を恐れるあまり、私は幼馴染の周防文哉のもとへ逃げるように嫁いだ。
けれど結婚から五年――私は家畜のように囚われ、夫とその愛人に蹂躙され続けた。息絶えようとするその瞬間、最後に目に映ったのは、私の目の前で絡み合う二人の姿だった。
【転生】
再び目を開けると、婚約が公の場で発表されたあの瞬間に戻っていた。
周防文哉が愛おしそうに私を見つめ、優しく囁く。
「俺と結婚してくれ。」
次の瞬間――若きヤクザの組長が私の腕を掴み、力強く抱き寄せた。銃口は真っ直ぐ周防文哉に向けられている。
彼が、私の代わりに答えた。
「――断る」













