第107章

落合睦生。

――どうして、こいつがここにいるの。

「千野征士に何をしたの……?」

声が震えて、言葉の端々が氷室から掬い上げたみたいに冷たく割れた。

落合睦生はソファからゆっくり立ち上がると、優雅な足取りで私の前まで来た。艶やかな目元には、猫が鼠を弄ぶような戯れと残酷さが、なみなみと満ちている。

答えは返さない。

ただ伸びてきた手が、汗で湿ったこめかみを、氷みたいな指先でそっと撫でた。

「言っただろ、松崎莉緒。六条修介の敵は、俺みたいに女を慈しんでくれる連中ばかりじゃない」

耳元に顔を寄せる。熱い息に酒の匂いが混じるのに、背筋は凍りついた。

「お前は、いつも言うことを聞かない...

ログインして続きを読む