第109章

最後の力を振り絞り、まだ自由の利くほうの手を持ち上げる。憎たらしいその顔めがけて、思いきり平手を叩きつけようとした。

――が。

手首は空中で、あっさり掴み取られた。

空いているほうの手が、いきなり後頭部を鷲掴みにする。次の瞬間、身体ごと壁へ叩きつけられ、逃げ場を失った。侵略的な気配を濃く纏った顔が、ゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。

冷たい唇が重なる、その寸前。

場違いなくらい甘ったるい声が、死んだような対峙を破った。

「睦生?」

アンナが、艶めいたシルクのネグリジェ姿で寝室の入口に立っていた。裸足のまま、媚びるような笑みを貼りつけている。けれど目の前の光景を見た瞬間、その笑みは...

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