第4章

会社での最後の引き継ぎを終え、退職メールを自動送信に設定した。

野村チームリーダーが、私がデスクを片付けている様子を、何か言いたげに見ていた。

「お疲れ様でした」

がらんとしたオフィスに向かって、私はそっと別れの言葉を口にした。

「私の五年間の青春を見届けてくれて、ありがとう」

すべてをきちんと済ませてから、私はアパートに戻った。

夜はすでに深く、渋谷のネオンが窓から差し込み、床にまだらな光と影を落としている。

この渋谷の中心地にあるアパートの家賃は、相場の三分の一でしかなかった。

幸広が当時、彼の友人が紹介してくれた「特別割引」だと言っていた。

大家は一度も顔を見せたことのない老人で、管理会社を通して「無期限で更新可能」だと伝えられた。当初は自分の運がいいだけだと無邪気に信じていたが、今思えば、これも彼が仕組んだことだったのだろう。

窓辺に座り、私はさらに多くの普通ではない「幸運」を思い返していた。

去年、母が急な肝臓の病気で手術が必要になったとき、病院は深夜に連続で輸血を行った後、母と同じ希少な血液型を見つけ出した。担当医は「奇跡だ」と驚いていた。その血液型は日本全体で三百人もいないのだから。

その時、幸広はちょうど出張中で、電話で私を慰めることしかできなかった。

「千絵子、心配ないよ。すべてうまくいくから」

最も不可解なのは、母が東大病院の特別病棟に入れたことだ。一年先まで埋まっている待機リストに名を連ねていたはずなのに、「幸運な番号を引き当てて」すぐに入院できたのだ。

院長自ら病室に見舞いに来て、私に言った。

「佐藤さん、あなたは本当に幸運ですね。この確率は宝くじに当たるより低いですよ」

私はこれらすべてを、苦笑しながら思い出していた。

荷物をまとめ始めると、自分の服が少なく、ぽつぽつと数着しかないことに気づいた。

スペースの大部分は幸広の物で占められている――彼のプログラミングの専門書、彼が愛用するゲームコントローラー、一緒に富士山へ行った時に買ったお土産。

五年という時間があったのに、私のすべては小さなスーツケース一つに収まってしまう。

私は染宮幸広がこの数年間でくれた、いくつかの「コピー品のバッグ」を引っ張り出した。彼はいつも「ネット通販の特価品」だと言っていた。

プレゼントをくれるたびに、彼は申し訳なさそうに言うのだ。

「千絵子、ごめん。俺、偽物しか買ってあげられなくて」

山田美月が初めてそれを見た時の驚いた表情を覚えている。

「これ、限定版よ。最低でも三百万円はするわ」その時は彼女を素人だと笑い、見る目がないのだと思っていた。

今、私はスマートフォンを手に取り、バッグの型番と年式を検索する。

指がスクリーンを滑るたび、一つ、また一つと嘘が暴かれていくようだった。画面に表示された価格に、息が詰まる――三百五十万円、日本国内で二十個のみの限定発売。

他のバッグもいくつか調べてみたが、すべてが限定版の本物で、総額は一千万円を超えていた。

私は苦笑しながらバッグを元の場所に戻した。この数年間、彼がくれた「安物のプレゼント」は、どれもこれも法外な価値があったのだ。

それなのに私は、三千円を節約して彼の誕生日プレゼントを買えたことに、誇りを感じていた。

怒り、困惑、悔しさ。複雑な感情が胸の中で渦巻く。

私は彼の将来を案じ、彼の「苦境」を心配し、彼が「仕事が見つからない」時には、自分のすべてを投げ打って彼のプロジェクトを支えた。夢を追いかける普通のプログラマーだと信じていたのに、自分が彼の「社会実験」における一つの変数に過ぎなかったとは。

「幸広、もしあなたがただの嘘つきだったなら、ここまで苦しまなかった。でも、あなたは嘘の中に真心を混ぜる。一体、誰を縛り付けたいの?」

窓の外に広がる東京の夜景を眺めながら、涙が静かに頬を伝った。彼の嘘を憎むべきか、自分の愚かさを憎むべきか、分からなかった。

毎朝五時に起きて、彼のためにお弁当を作っていた日々を思い出す。大根を切っていてうっかり傷つけた指、玉子焼きをうまく作れなかった痕跡、食費を切り詰めるために作った自家製の漬物。

あの頃の私は、「私たちの」未来のために努力しているのだと、愛で真摯な関係を育んでいるのだと信じていた。

今となっては、それらの献身は社会実験におけるデータの一つに過ぎなかったのだ。

「美しい思い出は、永遠にこのアパートに残しておこう」

私はそれらの参考書をそっと撫で、すべてを置いていくことに決めた。

夜十時、ドアの鍵が回る音が私の思考を遮った。

染宮幸広が帰宅した。彼はドアを開け、私がスーツケースに荷物を詰めているのを見て、その目に一瞬の動揺が走った。

「千絵子、これは……」

彼はまだ、私たちがユニクロで一緒に買った紺色のTシャツを着ていた。襟元は何度も洗濯したせいで、少しよれている。

それは私にとって最も馴染みのある幸広であり、私が理解していると思っていた、あの人だった。

「表参道にウェディングドレスを試着しに行きたいの」

私は静かに言った。その声には何の波もなかった。

「付き合ってくれる?」

幸広の目に複雑な色がよぎる。驚き、ためらい、そして私には読み解けない感情。彼はしばらく黙った後、頷いた。

「……わかった」

ウェディングドレスは、ずっと前から目星をつけていた。

それはシンプルな純白のドレスで、手の込んだ装飾はなく、ごく基本的なレースとパールのあしらいだけ。

何度もこの店に来て、何度も期待した。でもその時の私は、結婚式の祭壇に立ち、幸広が私を待っている姿を見たかったのだ。

翌日、私たちは約束通り表参道のドレスショップを訪れた。

一睡もしていなかったことと、ここ数日のショックで、私の顔は少しやつれていた。店員が私に見慣れたドレスを手渡し、私は試着室へと入った。

鏡の前に立ち、目を赤くしながら、私は彼にそっと尋ねた。

「綺麗?」

染宮幸広は口を開かず、ただ窓の外へと顔を背けた。

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