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第二十九章 夕暮れ

ディミトリ視点

支配的なアルファの男として、俺はこれまで自分の決断を疑ったことなど一度もなかった。だが最近、レイブンのこととなると、自分のあらゆる行動に迷いが生じているようだ。

本来なら、俺のものである存在を躊躇なく自分のものにできたはずだ。俺の内なる獣は、遺伝子レベルで純粋な性的欲求と支配を理解している。一方で、人間としての俺は、魂の片割れであるレイブンのために万全を期したいと願っていた。数週間前なら、番(つがい)に対してこんな感情を抱くなどと言われても、鼻で笑っていただろう。そもそも俺には、番を持つつもりなど毛頭なかったのだ。それなのに今、俺の身も心も、あの漆黒の髪...

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