第154章

林田知音は針のむしろだった。息をするのさえ怖くて、胸の奥がきゅっと縮む。

そっと目だけを上げ、日野成謙を盗み見る。日野時司の氷みたいに冷たい視線を真正面から浴びているのに、成謙の表情は相変わらず凪いだまま――その落ち着きが、逆に知音の不安を煽った。

(……やっぱり、成謙の言うとおりにしなきゃよかったのかも)

張りつめた空気が限界まで膨らんだ、そのとき。

「成謙、知音! 帰ってたのね!」

木下実初が、両親を連れて日野家にやってきた。

実初の母と成謙の母は実の姉妹だ。しかも木下家と日野家は昔からの付き合いで、行き来も多い。

「まあまあ、成謙ったら本当に彼女を連れてきたのね? 実初か...

ログインして続きを読む