第30章

林田知音は、手さえ動けばよかったのにと歯噛みした。そうしたら、あの男を思いきりぶん殴ってやれたのに――と。

自分のせいで彼女が羞恥と苛立ちに頬を染めている。それなのに日野成謙は、心の中では愉快でたまらなかった。肩に額をうずめたまま、くつくつと笑い続ける。

林田知音は天井を見上げ、もうどうにでもなれと言わんばかりの顔をした。ぼんやりしかけた意識の底で、ふと別のことが頭をもたげる。

もっと刺激、か。

目黒雲月も、そう思ったのだろうか。野呂雨芽のほうが、彼にもっと強い刺激を与えてくれる――だからこそ、あんな曖昧な関係を続けているのだろうか。

————

日野成謙は付き添いの世話係を手配し...

ログインして続きを読む