紹介
チャプター 1
幼馴染の二宮 蓮は、まる一ヶ月もの間、私に嘘をつき続けていた。
彼の耳に入りそうな「侮辱」はすべて私が防いできた。家族のスキャンダルを面白おかしく言いふらす連中にも立ち向かった。三年も通った学校を辞めて、彼と一緒に転校することさえ承諾したのだ。
蓋を開けてみれば、彼には私と一緒に行くつもりなど最初からなかったのだ。
六週間前、白石エリという生徒が転校してきた。その一週間後、蓮が私に不満を漏らし始めた。陰でコソコソ言われている気がする、と。父親の過去がまた蒸し返されている、と。廊下ですれ違う全員が自分を睨んでいるように感じる、と。
彼の父親、二宮大吾は正真正銘のクズだった。有能な女性と再婚し、彼女のコネを使って傾きかけた会社を立て直した挙句、裏切って粉飾決算に手を染めた。彼女は何も言わずに離婚届を突きつけた。このスキャンダルは東海岸中で大騒ぎになった。
蓮はずっとその影に怯えて生きてきた。誰よりも私がそれをよく知っている。
彼は所謂「婚外子」だった。父親の最初の結婚期間中に、外で作られた子供。私たちの属する社交界では、これほど恥ずべき出自はない。
だから、誰かがロッカールームで彼を追い詰め、服をトイレに放り込んで「こんな学校にお前みたいな『野良犬』の居場所はない」と罵った時、私はそこに割って入り、主犯格の男を突き飛ばした。
男は私を見て鼻で笑った。
「おやおや、西園寺家のお姫様じゃないか。自分が何を庇ってるのか分かってんのか? こいつの母親は家庭を壊した泥棒猫だぞ。ガキだって同類さ」
蓮は私の後ろで、無言のまま肩を震わせていた。
私は近くにあった野球のバットを掴んだ。
事態は泥沼化した。校長室に呼び出され、相手の親からは訴訟をちらつかせられた。母が出てきて事態を収拾しなければならなかったほどだ。私の評判は地に落ちた。
「西園寺家の令嬢は見る目がない。あんな落とし胤のために人間の盾になるなんて」と。
どうでもよかった。蓮は父親とは違うと信じていたから。周りの人間は彼を理解していないだけだと思っていた。
五歳の頃からの付き合いだ。十三年。同じ通りで育ち、同じ学校に通った。母は彼の家族を嫌っていたけれど、私は蓮だけは違うとずっと思っていた。彼はただ運が悪かっただけ。生まれた環境が悪かっただけだと。
私は彼が好きだった。ずっと前から。
先週、彼がまたプレッシャーや視線に耐えられないと言い出した。転校したい、もう限界だ、と。
「なら、私も行くわ」
私は迷わずそう言った。
あの時の彼の表情――私はそれを、感謝だと思っていた。
今日、私は忘れ物を取りに学校へ戻った。部室の前を通りかかると、中から話し声が聞こえた。自分の名前が聞こえなければ、気にも留めなかっただろう。
「……で、紫苑は本気で信じたのか?」
誰かが笑った。
「お前が『狙われてる』って言っただけで、転校に同意したって?」
蓮の声だ。
「他にどうするってんだよ? 俺が百回言えば、あいつは百回とも信じるさ」
足が凍りついた。
「でお前はどうすんの? 書類出したのか?」
「何を出すって?」
彼は笑った。
「俺が行くわけないだろ」
「うわ、冷酷だなあ」
誰かが口笛を吹く。
「でも西園寺紫苑は馬鹿じゃないぜ。お前が入学手続きしてないことぐらい、いずれバレるだろ」
「バレたところで何だ?」
蓮の声は軽かった。まるで退屈な世間話でもしているかのように。
「あいつは十年以上も俺の後ろをついて回ってるんだ。この程度のことで俺を切れると思うか?」
「大胆な賭けだな。他の男に走ったらどうする?」
一瞬の間。
「この学校には男なんて腐るほどいる。あいつがそのうちの一人でも二度見したことがあったか?東城家の息子が一学期まるまる追いかけ回してたけど、あいつは視界にすら入れてなかったぞ」
誰かが野次を飛ばす。
「つまり、一生お前に執着するってか?」
「まあな」
蓮は笑った。
「あいつは間違いなく、俺のために初めてを捧げるつもりでいるよ。なんなら結婚した後だって、俺のことを考えてるんじゃないか」
部屋中が口笛と下品な笑い声で沸き返った。
爪が掌に食い込み、血が滲んだ。それでも私は手を離さなかった。
「なら、なんで追い払うんだよ? 西園寺家の娘を侍らせとくのも悪くないだろ。連れて歩けば箔がつく」
蓮はすぐには答えなかった。
「エリが耐えられないんだ」
「何に?」
「紫苑が近くにいることにだよ」
彼は溜息をついた。声色が優しくなる。
「俺が紫苑と二言三言話すだけで、エリは癇癪を起こすんだ。泣いて、食事も喉を通らなくなって、『あんなお姫様に私が勝てるわけない』って言い出す。あいつのそんな姿、見てられないんだよ」
「だから一芝居打ったわけか……エリのご機嫌取りのために?」
「あいつは紫苑とは違う」
蓮の声には、私に向けられたことのない慈しみが込められていた。
「あいつには何もない。強力な後ろ盾も、資産もない。俺が守ってやらなきゃいけないんだ」
「紫苑はどうなんだよ? お前のために散々尽くしてきただろ」
「紫苑?」
彼は呆れたように言った。
「紫苑は『西園寺』だぞ。どこへ行っても周りが機嫌を取ってくれる。俺が守る必要なんてないだろ? それに、これまでのことも……あいつが勝手にやったことだ。誰も頼んでない」
誰かが笑って話題を変えた。
「はいはい、分かったよ。でも、もし今紫苑がドアから入ってきたらどうする? 何て言うんだ?」
「あいつが?」
蓮は鼻で笑った。
「もしこれを聞かれたとしても、少し泣いて、二、三日もすれば這いつくばって戻ってくるさ。俺以外に、あいつの居場所なんてないんだから」
私の手は既にドアノブにかかっていた。
蹴破ってやりたかった。あの顔を張り飛ばしてやりたかった。十三年分の清算を、全員の前でしてやりたかった。
でも、母の言葉が私を止めた。
母にはかつて、身分の違う友人に何もかも与えて助けようとした友人がいたらしい。母は損切りしろと忠告したが、その人は聞かなかった。結局、全てを失ったそうだ。
母はその話を何度も私に聞かせた。
『人から奪うことを生まれつきの権利だと思っている連中がいるの。与えれば与えるほど、彼らはあなたを軽んじる。そういう手合いと戦うのは、時間の無駄よ』
昔はその言葉を冷たいと思っていた。
でも今は分かる。
私はノブから手を離した。きびすを返し、廊下を逆方向へと歩き出した。
スマホの画面が明るくなる。蓮からのメッセージだ。
『今どこ? 今夜メシでもどう? 転校の手続き、詰めようぜ』
私は二秒だけそれを見つめ、スワイプして消した。
確かに、転校の手続きは進めなくちゃいけない。
ただ、行き先を変えるだけだ。
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生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
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四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
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「宮本景太。今日からあなただけが、私のたった一人の『お兄ちゃん』よ」
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「『唯一の兄』だと……? じゃあ、俺たちはお前の何なんだ!?」
南から北へ、届かなかった想い
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「?」
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